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DXが加速するインド電気自動車業界の動向

2021.10.12 / DX

(文責:田中啓介・山本久留美)

DXが加速するインド電気自動車業界の動向

この数年で他国と比較しても顕著な伸びを見せるのが、インドの電気自動車業界。

電気自動車(EV)を扱うスタートアップも増え、日本企業もインドの電気自動車業界に参入しはじめています。特に、インドにおけるEリキシャ(EV三輪)および電動バイク(EV二輪)は新たな「リープフロッグ現象」になり得る可能性に秘めた市場であることから、今回はインドの電気自動車業界についてご紹介します。

1. インドの電気自動車業界の現状

「リープフロッグ現象」とは、発展途上国が先進国の技術に追いつく際に、段階的な成長を経験せずに一気に最先端のレベルに到達する現象を指します。インドのリープフロッグ現象のひとつとして注目したいのが「電気自動車(EV)」の分野です。先進国でも発展中の電気自動車に、インドは国をあげて取り組んでいます。

CEEW Centre for Energy Finance (CEEW-CEF)の独自調査によると、2030年までにインドのEV市場は約2066億USドル、世界3位規模まで成長する見込みとのことです。インドの中でもIT都市バンガロールのシェアが高く(インド全体の12%)、比較的整備されたインフラ環境やEEV関連スタートアップの豊富さがEVの普及を後押ししていると考えられます。

しかし、近年はコロナの影響で生産数・販売数が滞ってしまっているのも事実です。Society of Manufacturers of Electric Vehicle によると2020〜2021年度はEV二輪・三輪・四輪の合計で約23万台以上を売り上げていますが、前年比では約20%低下しているとのことです。ですが、コロナに負けずEV分野の発展を加速させたいというインド政府の意図も窺えます。2021年5月には輸入への依存を減らす目的で国産のEVバッテリーにインセンティブを与える法令「Production-Linked Incentive Scheme (PLI) for ACC Battery Storage Manufacturing」が定められ[i]、またマハラシュトラ州は2025年末までに新規登録車両の10%をEVにする方針を示しました。[ii]

2. インドでEVの導入が進んでいる理由とは

インドでEVの導入が急速に進んでいるのは、国をあげてのEV奨励が理由だと考えられます。その背景にあるのが「石油の貿易赤字」「深刻な大気汚染」です。インドは世界3位の石油消費国であり、中東の産油国に対して大きな貿易赤字を抱えています。[iii]近年化石燃料の価格高騰でガソリンの値段も上がり続け、燃料価格をめぐるストライキが頻発しており、化石燃料への依存がインド政府を長年悩ませています。

また、2019年はインド全土で約170万人が大気汚染の呼吸器疾患で亡くなっていると言われています。首都ニューデリーは世界最悪の大気汚染都市となっていることからも、化石燃料からクリーンなエネルギーの転換の必要性に迫られています。このような背景から、化石燃料の消費量が少なく排気ガスを出さないEVが政府の期待を背負うようになったのです。

EV導入を進めるため、インド政府や各州政府は以下のような優遇措置を設けています。

インセンティブ項目内容
■ 購入時のインセンティブ
  (Purchase Incentives)
EV購入時の割引など

■ ローン利率減免
  (Interest Sbventions)
EV購入時のローンの利率が低くなる
(Delhiで5%の利子減免)
■ 道路税の免除
  (Road tax exemption)
道路税の免除・減免
(Delhi, Andhra Pradesh, Telangana等は免除)
■ 登録料の免除
  (Registration fee exemption)
MoRTH(インド道路交通省)EVの登録料・登録更新料の免除を通達
■ 税務上の優遇
  (Income tax benefit)
EV購入時のローンから最大15万ルピーを減免
(※インド所得税法第80EEB条に基づく)
■ GTS率の低減
  (Low GST rate)
ICE車のGST28%に対し、EV車は5〜12%を適用

■ グリーン税の免除
  (Exempt from Green tax)
購入15年後の登録証更新時にかかる3,000ルピー(ガソリン四輪車の場合)のグリーン税を免除
■ 廃車インセンティブ
  (Scrapping incentives)
ICE車の登録解除時、廃車価格の数%の補助金支給やメーカー割引、登録料免除等が受けられる
■ SGSTの返金
  (SGST reimbursement)
州に払ったGSTを100%返金
(Andhra Pradesh等の一部の州)

※GST(Goods and Service Tax): 政府に支払う物品サービス税(間接税)で日本における消費税にあたる

EVに関するインセンティブの規定は毎年州や政府が更新していますが、今のところインセンティブは手厚くなる一方です。そのため、EVの購入ハードルが下がり、ICE車からEVに乗り換える人たちが都市部を中心に増えつつあります。

3. EV二輪のコスト「ガソリン車vs EV車、どっちが得?」

EVのスクーターとICE(ガソリン)スクーターは、どちらの方が得なのでしょうか。インド・チェンナイの新聞The New Indian Expressが試算したコスト比較によると、以下の表の通りとなります。[iv]

項目EVスクーターICEスクーター
本体価格80,000〜300,000ルピー50,000〜100,000ルピー(125cc)
1kmあたりの走行コスト0.2〜0.43ルピー1.2〜1.9ルピー
50,000km走行時の燃料費10,000〜21,500ルピー60,000〜95,000ルピー
5年間の保険料7,000〜9,000ルピー4,000ルピー前後
補助金・割引あり
(車両割引、道路税免除など)
なし
税金減免
あり
(道路税、追加道路税など)

車両価格や保険料を比べると、ガソリンで走るICE車の方が安いと言えます。

インドで一番人気のICEスクーターHonda Activa125ccの車両価格約72,000ルピーに対し、Ather 450xというEVスクーターは14万(1.4lakh)ルピーと倍近くの価格となっています。ですが、最高走行速度を25km/時に抑えたThe Hero Electric Atria LXというモデルは63,000ルピーと比較的安価で販売されており、EVスクーターにも低価格モデルが登場し始めています。

EVは長期的に利用するほど、コストパフォーマンスがよくなると言われています。その理由が燃料費の安さと、可動部品の少なさです。EV車はICE車に比べると可動部品が少ないので、メンテナンスコストがかかりません。5年間のトータルコストを比べると、以下のようにEVの方がICE車よりも安くなります。

四輪車の種類5年間のコスト
EV:Nexon EV96,000ルピー
ICE:Maruti Swift480,000ルピー

※1リットル100ルピー、1W10ルピーで想定

本体価格や保険料はEV車の方が高くなっているものの、インドのガソリンの価格は上昇する一方です。燃料費や優遇措置、メンテナンスコストを考慮するとEVのコストパフォーマンスに軍配が上がると言えるでしょう。中長期的なコストメリット・費用対効果よりも、短期的な目先の価格を重視する傾向にあるインド国内消費者が、このコスト試算をどのように評価するのか、今後の動向が注目されます。

4. EVを生産・販売・活用しているインドスタートアップ企業

EVにはクリーンなイメージがあり、参入するスタートアップ企業も増えています。さらに、EV車両のみならずEVに紐づいたアプリ開発も進んでおり、さまざまな機能によって使いやすさが大幅に向上しています。以下でインドEV業界を牽引するスタートアップ企業3社を紹介します。

①ハード・ソフトの両サイドからEVを進化させる『Ultraviolette Automotive』

企業名   :Ultraviolette Automotive Pvt. Ltd

本拠地   :ベンガルール

CEO      :Narayan Subramaniam

創業       :2015年

公式HP :https://www.ultraviolette.com/

Ultraviolette AutomotiveはEVスクーター、バッテリーパック、EVとシンクロする走行アプリを開発しています。主力商品のF77はバッテリーパック3つで、130〜150km走ることができ、最高速度140km/時まで出せる高性能EVスクーターです。また、アプリが走行データからパフォーマンスや走行履歴など分析し、車両の状態も点検してくれ、IoTを体現している点も見逃せません。パーソナライズされた走行経験、メイドインインディア(バッテリーセル以外はすべてインド製)で注目を集めているスタートアップです。

Global Japan AAP Consulting社の「Vol.0061 EVスタートアップのUltraviolette、インドのテスラになり得るか?」にて詳しく解説されているので、こちらも参照してみてください。

②レンタルEVスクーターのパイオニア『Yulu』

企業名:Yulu Bike Pvt. Ltd

本拠地:ベンガルール

CEO:Amit Gupta

創業:2017年

公式HP:https://www.yulu.bike/

インド・ベンガルールに「アプリでレンタルできる」EVシェアスクーターをもたらしたのがYuluです。ユーザーの位置情報を利用して車両を管理しています。ユーザーはYuluアプリに登録し、車両のQRコードを読み込むことでレンタルができます。街中には「Yulu Zone」というピックアップ・乗り捨てスポットが複数箇所設けられています。コロナによって一時Yuluの利用率が低下しましたが、デリバリー需要に対応したことで一気に盛り返しました。

Yuluが注目を集めている理由にインドならではの背景があります。つまり、コロナのデリバリー需要とともに配達人に就業希望する人が増えたものの、都市部若年層の運転免許取得率は高くありません。そこで、免許なしで運転でき、台数が豊富かつ車両の購入が必要ないYuluのEVスクーターレンタルサービスが求められるようになったのです。デリバリー用の荷台つきEVスクーター、長期レンタルプランなど、配達人向けにさまざまなオプションが設けられています。

③Eオートリキシャーを開発する『GMW』

企業名:Gayam Motor Works Pvt. Ltd

本拠地:ハイデラバード

CEO:Raja Gayam

創業:2010年

公式HP:https://www.gayammotorworks.com/

Gayam Motor Works(GMW)はEオートリキシャー(EV三輪)の開発・販売を手がける企業で、ハイデラバードのビジネスインキュベーダーT-Hubからも投資を受けています。排気ガスによる環境汚染防止を掲げており、「環境にやさしい自動車」の提供に努めています。

インド市場向けに使用用途別・バッテリー別に4種類のEオートリキシャと電動サイクルが、バングラデシュ市場向けにはEV四輪も販売されています。乗客を乗せるためのモデル「Urban ET」は3時間のフル充電で110kmの走行・最高速度55km/時が可能です。燃費やバッテリー状況、ロケーションや交通状況を確認できるアプリと連携もできます。

5.インドEV市場で活躍する日本企業

インドEV市場の発展を受け、参入する日本企業が増えています。中でも特に存在感を発揮する2社を以下で紹介します。

①スズキ

インドの四輪車の販売台数の51%、[v]マーケットでシェア1位を誇るのが日本の自動車メーカー・スズキです。

50%シェアの維持を図るため、スズキは小型のEV四輪を投入することを発表しました。100万円台の電動軽自動車の販売を2025年までに目指すとのことです。ICE車シェア1位のスズキもEVを無視できないほど、EVへの転換が迫られていることがわかります。

また、EVの生産拠点として中国が有力でしたが、安全保障上の観点から安定供給の問題が浮上しています。インドは日本とアメリカとの同盟関係にあるので、スズキの持つインド工場を生産拠点とすれば、その心配がありません。このような安全保障の観点からも、スズキのインドEV開発に世界中が注目していると言えます。

②テラモーターズ

米テスラやUltraviolette Automotiveがインド富裕層をターゲットとしている中、テラモーターズ(東京都千代田区)は貧困層にアプローチしており、上記で紹介したGMWとも提携しています。

テラモーターズもEオートリキシャを販売しており、GMWがインド製にこだわる一方、テラモーターズは部品の65%を中国製とすることで安定した品質を誇っています。

テラモーターズのモバイルアプリも特徴的です。走行データに加えてローンの支払い状況も反映されており、ローンの支払いが滞ると遠隔で車両を動かなくできるようになっています。この仕組みのおかげで信用力の低い低所得者もローンを組むことが可能となりました。

バングラデシュなど近隣国でもEV事業を展開しており、インドでは2021年にEVスクーターが販売開始する予定です。

6.まとめ

深刻な大気汚染や石油の貿易赤字などで、環境的・経済的な要因からインドのEV市場は発展せざるをえない状況に置かれています。政府によるEV政府措置が進み、EV車両の低価格化やDX戦略で、EVの導入がインド社会全体でさらに進んでいくことが予測されます。今後も、インドのEV業界の動向にぜひ注目してみてください。

参照元

[i] https://www.india-briefing.com/news/indias-pli-scheme-for-acc-battery-storage-manufacturing-22349.html/

[ii] https://www.jetro.go.jp/biznews/2021/07/a60c8cb4a2f3e1dc.html

[iii] https://forbesjapan.com/articles/detail/37203

[iv] https://www.newindianexpress.com/business/2021/jul/26/electric-vehicles-get-cheaper-every-kilometer-2335412.html

[v] https://saiyo.suzuki.co.jp/graduate/about/global/index.html

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