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インドにGCCを置くべき理由|ベトナム・フィリピンとの決定的な違い

2026.05.22 / COLUMN

インドにGCCを置くべき理由|ベトナム・フィリピンとの決定的な違い

「どの国のエンジニアが安いか」という問いでGCC設立国を選ぼうとしている場合、判断の前提が間違っている可能性が高いと言えます。

「ベトナムのエンジニアはコスパが高い」「フィリピンは英語が通じて使いやすい」

インドでのGCC設立を検討する日本企業から、こうした他国との比較の声をよく耳にします。確かにコストや英語力は重要な指標です。しかしそれらの軸のみで比較しているうちは、オフショア開発会社への発注先を選んでいるのと変わりません。

GCC(グローバル・ケイパビリティ・センター)とは、自社のDXやAI開発を担う戦略拠点です。外注できない業務——プロダクトのコアロジック、グローバルな人材育成、未来の競争優位——を自社チームで推進するための拠点を指します。その設立国を選ぶ基準は、「今、誰が安いか」ではなく「10年後も通用するエコシステムがあるか」でなければなりません。

本記事では、インド・ベトナム・フィリピンの3カ国をGCC設立という観点から比較し、なぜインドが他の選択肢と根本的に異なるのかをデータをもとに徹底解説します。

※ 本記事は2026年5月時点の情報をもとに執筆しています。

💡 本記事のポイント

インドのGCCエコシステムは、ベトナム・フィリピンとは次元が異なります。「安さ」ではなく「構造的優位性」で選ぶべき理由を3点に整理しました。

  • オフショアとGCCは目的が違う:オフショア開発は「業務の外注」、GCCは「自社能力の海外構築」。国選びの前に、まずこの問いを自社に問い直す必要があります。
  • ・インドのGCCエコシステムは世界唯一:2024年時点でGCC数1,800社超・AI専門人材12万人規模。同等のエコシステムを持つ国は現存しません。
  • コスト優位性には賞味期限がある:「人件費の安さだけで選ばれている国」は経済成長とともにその優位性を失う可能性が高いと考えられます。

▼ 関連記事:インドGCCとは何なのか?欧米企業の潮流と日本企業の最新事例https://indigital.co.jp/topics/column/gcc-01/

オフショア開発とGCC設立は、そもそも「問いの立て方」が違う

オフショア開発とGCC設立は、目的が根本的に異なります。

表:オフショア開発とGCC設立の違い

オフショア開発GCC設立 
目的決まった業務の外注・コスト削減自社の戦略機能を海外に構築
主体ベンダーが開発を主導自社チームが開発・意思決定
対象業務要件定義済みの開発・運用AI/DX・プロダクト開発・R&D
雇用関係ベンダーの社員自社が直接採用
リスクベンダー依存・品質のブレ採用・マネジメントの内製化が必要
向いている企業短期・定型業務を効率化したいグローバルな競争優位を構築したい

多くの日本企業が「どこに発注するか」という文脈でインド・ベトナム・フィリピンを比較しています。しかしGCCの検討において本来問うべきは、「どこに自社の能力を根付かせるか」です。

AIを活用した製品開発、データエンジニアリング、デジタルプラットフォームの構築などの機能は、外注できる性質のものではありません。だからこそ、欧米のグローバル企業はこぞってGCCというかたちで「自社チームを海外に持つ」選択をしています。

そのため、企業がまず問い直すべきは、「海外に委託したいのか、海外に自社チームを持ちたいのか」です。

インド・ベトナム・フィリピン:定量データで見る3カ国の現在地

3カ国の主要スペックをデータで比較します。なお、Kearney GSLI(Global Services Location Index)とは、Kearneyが隔年で発表する世界78カ国のオフショア・GCC拠点としての総合魅力度ランキングです。人件費・人材スキル・ビジネス環境・デジタル対応力の4軸・52指標で評価されており、拠点選定の国際標準指標として広く参照されています。

表:インド・ベトナム・フィリピン 主要スペック比較(2023〜2024年データ)

評価指標インドベトナムフィリピン 
Kearney GSLI 2023 順位(拠点魅力度・世界78カ国) ※11位7位12位
IT・エンジニア人材数(就業者)約540万人 ※2約55万人 ※3約182万人(BPO中心)※4
ITエンジニア年収相場(中堅レベル目安)※5約180〜370万円約140〜240万円約120〜210万円
GCC・自社拠点数 ※61,800社超主にオフショア拠点主にBPO拠点
英語力(EF EPI 2024)※7ModerateModerateHigh
日本との時差-3.5時間-2時間-1時間

この表を見ると、フィリピンは英語力と時差で、ベトナムはコスト面で有利に見えます。しかし、GCC設立国を選ぶ基準という視点で見たとき、インドとその他2カ国の間には埋めようのない差があります。

なぜ「GCC拠点」としてインドが別格なのか

GCC設立地としてインドが選ばれ続ける理由は、コストの安さではありません。「インドにしか存在しないエコシステム」の成熟度です。

AI・先端技術の人材規模が根本的に違う

インドのIT・エンジニア人材は約540万人に上り、世界最大の技術人材供給源となっています。なかでも注目すべきはAI・機械学習(ML)の専門人材の厚みです。NASSCOM・Zinnovの共同レポートによれば、インド国内のGCCでAI/ML専門のCenter of Excellence(CoE)を設置している企業はすでに185社を超え、AI専門人材プールは12万人規模に達しています(※6)。

ベトナムのIT就業者は約55万人で、政府主導で半導体エンジニア5万人育成を進めていますが、GCCエコシステムはまだ発展途上です。また、フィリピンはIT-BPM産業で約182万人を雇用する世界屈指のBPO拠点ですが、AI・R&Dの専門人材プールという点ではインドと比較できる水準にありません。

1,800社超のGCCエコシステムが持つ意味

2024年時点でインドには1,700〜1,800社超のGCCが集積しています。この数字が意味するのは単なる企業数ではありません。GCCの設立・運営を支援する専門ベンダー、法務・税務・HR・採用のエコシステム、同業他社とのベンチマーキングの機会——これらすべてが既に整備されているということです。

弊社でも、これまでGCC初期メンバーの採用支援を行なってまいりましたが、ベンガルールやハイデラバードの採用市場には、他社GCCでの立ち上げや運営を経験した即戦力のエンジニア・マネージャーが豊富に存在します。入社初日からGCCの開発体制構築や採用設計を動かせる人材を確保できるため、立ち上げ期の試行錯誤コストが他国と比べて大幅に低くなります。エコシステムの成熟度は、採用できる人材の質と幅に直結します。

あるクライアントからは「ベトナムでの拠点設立も検討したが、GCC運営の経験を持つ現地採用候補者が見つからず、インドに切り替えた」という相談を受けたことがあります。ベトナムでの採用活動はオフショアベンダーへの転職が主流であり、「自社GCCで働きたい」という動機を持つ人材市場がインドほど成熟していないのが現実です。

コスト優位性には「賞味期限」がある

正直にお伝えすると、「インドより安いからベトナム」という判断は短期的には合理的です。しかし10年単位で考えると大きなリスクが潜んでいます。

Kearney GSLI 2023(※1)によると、人材の質・デジタルインフラ・ビジネス環境を重視するシナリオに切り替えた場合、米国・英国・ドイツ・カナダ・シンガポール・日本といった先進国がオフショア拠点として上位に浮上すると示しています。これは、コストという軸を外せば、これらの国が人材の質・デジタル基盤・ビジネス環境で他国を大きく上回っていることを意味しています。

裏を返せば、「人件費の安さだけで選ばれている国」は経済成長とともにその優位性を失う可能性が高いといえます。ベトナムのエンジニア単価はすでに上昇傾向にあり、フィリピンも同様です。コストが主な選択理由であれば、数年後に「さらに安い国」への移転という判断を迫られるリスクがあります。インドをGCC拠点として選ぶことは、コストという「賞味期限のある優位性」ではなく、AI人材・技術エコシステム・英語力という「構造的な優位性」への投資です。

だからこそ、今のコストではなく「5年後・10年後の戦略的価値」でインドを評価すべきだと言えます。

ベトナム・フィリピンが強みを発揮する場面とは?

GCC設立国の選定において、ベトナム・フィリピンはインドの代替ではなく補完として機能します。両国にはGCCとは異なる文脈で明確な強みがあり、インドのGCCと組み合わせることで相乗効果が生まれます。

ベトナムが本領を発揮するのは、日本市場向けプロダクト開発の外注チームとしてです。時差2時間・日本語対応人材の豊富さ・日系企業の受け入れ実績という3点で、日本向け開発に特化したオフショアチームとして機能します。

フィリピンはカスタマーサポート・BPO業務の拡充において世界屈指の実力を持ち、英語でのリアルタイム対応が必要な業務に強みを発揮します。

重要なのは、ベトナムやフィリピンはGCCの「代替」ではなく「補完」として機能するという点です。インドにAI・DX開発の中核GCCを置き、ベトナムに日本向け開発チームを持つというマルチハブ戦略を採る企業が、欧米グローバル企業の間では増えています。

そのため、重要な問いは「インド vs ベトナム・フィリピン」ではなく、「何をインドで、何をベトナム・フィリピンで担うか」に変わるのです。

どちらを選ぶべきか?3つの判断基準

GCC設立国を選ぶ際は、外注目的か・投資期間か・対象市場かの3軸で判断することが重要です。

判断軸①「外注」か「自社拠点」か

定型業務の効率化・コスト削減が主目的であれば、ベトナム・フィリピンへのオフショア発注が有力です。AIやDXを自社チームで推進し、グローバルな競争優位を構築したいのであれば、インドへのGCC設立を検討すべきです。

判断軸②「今」か「10年後」か

2〜3年の短期プロジェクトであれば、コストと時差を重視してベトナム・フィリピンも合理的な選択肢です。長期的に自社の技術力を高める拠点を作るなら、インドのエコシステムへの投資が長期的な優位性をもたらします。

判断軸③「どの市場向けか」

日本国内向けのプロダクト開発が主であれば、時差が小さくブリッジSEが豊富なベトナムが使いやすい場面があります。グローバル市場、特に北米・欧州を狙うプロダクトやサービスには、英語力と先端技術人材の厚みでインドが圧倒的に優位です。

「グローバル市場・AI・長期戦略」のいずれかを視野に入れているなら、GCC設立先はインドを第一候補として検討すべきです。

まとめ

オフショア開発とGCC設立は、問いの立て方が根本的に違います。コスト比較という土台でインドを評価すると、ベトナムやフィリピンのほうが有利に見える場面もあります。しかしGCCという「自社の戦略機能を海外に構築する」観点で評価したとき、インドのAI人材規模・1,800社超のGCCエコシステム・世界に通用する英語力という構造的優位性は他国の追随を許しません。

だからこそ欧米のグローバル企業の多くがインドをGCCの中核拠点と位置づけ、ベトナムやフィリピンを補完的に活用するマルチハブ戦略を選んでいます。日本企業がグローバル競争に本気で挑むのであれば、「どこが安いか」から「どこで自社の能力を育てるか」への問いの転換が必要です。

弊社では、インドGCCの設立検討から採用・立ち上げ・定着支援まで、日系企業に特化したワンストップサポートを提供しています。「まずインドGCCの実態を知りたい」という段階からお気軽にご相談ください。


▼関連記事はこちら:インドGCCとは何なのか?欧米企業の潮流と日本企業の最新事例https://indigital.co.jp/topics/column/gcc-01/

▼関連記事はこちら:インドがGCC設置拠点として選ばれ続ける理由https://indigital.co.jp/topics/column/eor_gcc_bot/

よくある質問(FAQ)

Q. オフショア開発とGCCの最も大きな違いは何ですか?

A. 「誰が働くか」の違いです。オフショア開発はベンダーの社員が業務を遂行する外注モデルですが、GCCは自社が直接採用した現地社員で構成される自社の一部門です。AI開発・プロダクト戦略・データエンジニアリングなど、外注できない業務を自社チームで担う拠点として機能します。

Q. インドはコストが高いのでは?

A. ベトナム・フィリピンと比べると、エンジニア単価はやや高い傾向があります。ただしインドのTier-2都市(コチ・ティルヴァナンタプラ等)を活用することで、コスト削減ができる可能性があります。また長期視点では、GCCエコシステムの成熟により採用・立ち上げ・定着のコストが他国より低くなる場合があります。

Q. 小規模な会社でもインドにGCCを設立できますか?

A. はい、可能です。EOR(代替雇用)サービスを活用したマイクロGCCが普及しはじめており、現地法人設立なしで5〜10名規模から始める事例が増えています。まず小規模なパイロットチームを立ち上げ、成果を確認しながら段階的に拡大するアプローチが日系企業には適しています。
※インドでマイクロGCCを立ち上げた事例はこちらの記事をご覧ください。

Q. ベトナム・フィリピンとインドを同時に活用することはできますか?

A. 可能です。インドにAI・DX開発の中核GCCを置き、ベトナムに日本向けプロダクト開発チーム、フィリピンにBPO・カスタマーサポートを配置するマルチハブ戦略を採る企業が増えています。各国の強みに合わせて機能分担することで、コストと品質の最適解を追求できます。

Q. インドにGCCを設立するとしたら、費用と期間の目安はどのくらいですか?

A. EOR(雇用代行)を活用したマイクロGCCの場合、初期費用は月額数十万円規模から始められます。現地法人設立を伴う本格的なGCCは設立費用・法務・採用コストを含めると数百万〜数千万円規模が目安です。期間は初期メンバーの採用完了まで3〜6か月、チームが実稼働するまで6〜12か月程度を見込むケースが多く見られます。

※1 Kearney「Global Services Location Index 2023」https://www.kearney.com/service/digital-analytics/gsli/2023-full-report

※2 NASSCOM Strategic Review 2024, https://nasscom.in/sites/default/files/media_pdf/nasscom-strategic-review-2024-press-release.pdf

※3 TopDev Vietnam IT Market Report 2023, https://topdev.vn/vietnam-tech-talents-report-topdev-2023

※4 IBPAP News Room 2025, https://ibpap.org/news-room/21

※5 Randstad「Salary Trends Report 2025-26」https://mediabrief.com/randstad-salary-trends-report-2025-26/(インド)/ ITviec「Vietnam IT Salary & Recruitment Market Report 2024-2025」https://itviec.com/report/vietnam-it-salary-and-recruitment-market-2024-2025 (ベトナム)/ Jobstreet Philippines Salary Report https://ph.jobstreet.com/career-advice/role/software-engineer/salary(フィリピン)

※6 NASSCOM・Zinnov「India GCC Landscape Report 2024」https://community.nasscom.in/communities/global-capability-centers/gcc-annual-report-2024

※7 EF English Proficiency Index 2024, https://www.ef.com/epi/

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