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2024.05.28 / COLUMN
CLIENT PROFILE/クライアントプロフィール
会社名 :株式会社Ginco
事業内容 :
業務用の暗号資産ウォレットシステムやWeb3サービスの開発をサポートするAPIソリューション等の提供
ブロックチェーン技術関連のコンサルティング企業ホームページ :
株式会社Ginco様は、ブロックチェーン技術のプロフェッショナルとして企業のWeb3事業の実現をサポートするスタートアップ企業です。業務用の暗号資産ウォレットシステムやWeb3サービスの開発をサポートするAPIソリューション等を提供しており、2023年11月に南インド・ベンガルールに同社初の海外開発拠点を設立されました。
今回は、2023年4月から弊社INDIGITALのインドEOR導入支援サービスをご利用いただいた株式会社GincoのCTO森下真敬様とインド子会社取締役の月井涼太朗様に、インド人ソフトウェアエンジニアとのチーム立ち上げの背景や弊社を選んだ理由、実際にEORを導入してみた感想などを伺いました。
田中:まずは御社が提供しているサービスについて教えてください。
森下:私たちはビットコインやイーサリアムなどをはじめとした暗号資産を取り扱う業務用のウォレットシステムを提供している会社です。世界の中でも進んでおり厳格ともされる日本の暗号資産関連規制に準拠したセキュリティの高い業務用ウォレットや、Web3サービスの開発に必要となるAPIやSDK等のソリューションを提供しています。業務用ウォレットでは数千億円以上といった規模感で顧客から暗号資産を預かり、保管し、取り扱う必要がある、主に金融事業者様向けのサービスとなります。後者はブロックチェーン技術を用いたWeb3アプリケーション開発における開発者向けのサービスです。
田中:どのような想いで貴社を創業されたのですか?
森下:弊社代表の森川から一緒に暗号資産のウォレットを開発しようと声をかけられたのが創業の経緯です。当時ビットコインが10万円から200万円ほどに上がっていくフェーズでしたので「この波に乗らないと」という気持ちがありました。
実は2017年創業当時のメジャーな暗号資産といえばビットコインやイーサリアム等だったのですが、暗号資産を送金したり保管するためのウォレットアプリには、日本語で使用できるものや複数の暗号資産を取り扱えるものがなかったんです。そこで日本語で使用でき、複数の暗号資産も取り扱え、かつウォレットの中で他の資産に交換できる機能があったら便利なのではないか、といった考えのもとプロダクトを考えました。
ただ、各国で暗号資産のハッキング事件が相次ぎ、日本国内の規制が厳しくなったこともあり、アプリ内で他の資産に交換する機能を付けるには暗号資産交換業のライセンスが必要になりました。我々が元々想定していた個人向けのビジネスモデルはハードルがかなり高くなってしまったんです。
当時様々な取引所から暗号資産が流出してしまった背景には、取引所が暗号資産を安全に保管するための運用が業界内で確立されておらず、取引所によっては試行錯誤のうえ個人向けのウォレットを業務のオペレーションの一つとして使用していたという実態がありました。そのウォレットには何百億円相当もの暗号資産が入っており、ハッキングされやすい管理状況のため盗まれてしまうということが起こっていたわけです。
リサーチをする中でそのような業界の課題を発見し、もともと個人向けに開発していたプロダクトの技術を転換、取引所向けの業務用ウォレットの開発をはじめたのが現在のサービスの始まりです。
田中:現状の開発メンバーや開発体制について教えてください。
森下:会社全体として業務委託の方を含めると80名ほどです。そのうち開発メンバーは約35名です。日本には日本人エンジニア以外に日本語が堪能な中国人やロシア人、インド人のメンバーがいて、インド側にインド人エンジニアが7名います(2024年3月時点)。
田中:開発体制を構築する上で、なぜインド人ソフトウェアエンジニアを起用されたのでしょうか?
森下:いろいろな国の選択肢を考えたんですが、アメリカやイギリスなどの国を考えると物価差も含め人件費が高いですし、やはりアジアがコスト的に可能な範囲だろう、と考えました。アジアの中で考えるとタイやベトナム、台湾のような国が一般的ですが、我々の開発手法や開発体制としてあまりオフショア拠点に対して指示・命令をし、プロダクトを作ってもらうというスタイル(指示をしないと動かない開発スタイル)は合わないというのもありました。
そこで、インドの中でも特に外資が多く進出し、一定のグローバルスタンダードが確立されているベンガルールに注目しました。というのも、さまざまな方々に話を聞いてみると、インド人は開発に対するマインドやスタンスとして、パッションを持って自発的にプロダクトをつくるボトムアップ的なところを持ち合わせていて、そこがGincoの開発カルチャーに合うかもしれないと思ったんです。そもそもプロダクトというのは、たくさんの人々が集まるだけでは作れません。作りたいというパッションを持った人が目的を持ってリーダーシップを発揮する、その人を周りがサポートする形で進めていく必要があります。少数精鋭で取り組みたい我々がIT人材を見たときにインドは1つの適した場所なのかもしれない、と感じました。
月井:私の方では、最初に様々なレポートをもとにデータの調査を行いました。日本では一般論としてもエンジニア獲得は激化している中で、それこそ若手のIT人材を確保できる国はどこだろう、Web3の市場としてはどこが大きいだろうとマクロ的な観点で調査を進めていきました。そうするとアメリカ・中国・インドあたりがトップに出てくるわけですが、アメリカはコストが高く、中国は外資企業が入り込む上で少しハードルが高いのではないかと考えました。
外部企業の調査では、Web3の市場におけるIT人材としてインドが世界3番目で、世界のWeb3関連企業で働く人材の10%ほどがインドにいると言われています。この情報も我々の背中を押したこともあり、まずは実際に現地でビジネスを行っている人に会って話を聞いてみよう、ということになりました。その頃に田中さんに最初にコンタクトを取らせていただいたという流れです。そして、いろいろな方々の話を聞いているうちに、少しずつインドなら可能性がありそうだ、という感触を積み重ねていきました。
田中:インド人ソフトウェアエンジニアの採用で苦労した点を教えてください。
森下:我々2人ともあまり苦労を苦労と思わないようなところがあるので何か困ったことはあったかな、という感じではあるんですが(笑)。振り返ってみると、最初は採用カルチャーの違いや、企業側と候補者側のパワーバランスの違い、面接でどのような質問が一般的か、コーディングのテストなどを含めてどういう選考プロセスにすべきかなどを検討していくところは難しいと思いましたね。例えば日本だとエンジニアの数が少ないので、こちらから候補者に対してスカウトしていくケースも多いんですけれど、売り手市場のためか日本の候補者はスキルを測るための技術面接に対して精神的負荷を感じる傾向があるように思います。一方でインドではあまり感じられないといった違いがありましたね。
月井:苦労したところは、私たち日本企業の感覚を手放し、グローバルの基準にアジャストさせていくという部分かもしれません。インド側がグローバルのスタンダードな環境と考えると、我々日本人が持っている普段の見方や考え方が異なる可能性は高く、その差を近づけていく必要があると感じます。
また、プロジェクトを進める上で、グローバル化していく社内の動きに対して日本側のメンバーの不安を払拭し協力を仰いだりすることも難しかったですね。今でこそ「みんなで取り組もう」という空気感がありますが、当初社内には、どのように英語話者の受入れ体制を作っていくんだろう、といった不安や心配がありました。そんな時にインドでの取り組みを社内で発信し少しずつ社内を巻き込み、周囲の協力を仰いでプロジェクトを進めていくことが大事だと感じましたね。
あとはオファー合意したにもかかわらず入社に至らないケースもありました。日本でしたら内定を承諾したら入社日には予定通り来てくれるだろうと思いますが、インドでは内定後も継続的にコミュニケーションを取って最後まで気持ちを途切れさせない必要があります。過去入社いただけなかった候補者に対しては内定後のフォローアップが弱かったんだろうと思います。こちらから迎えにいかないと他社へ行ってしまう可能性もあるため、フォローアップが大事だと感じています。
田中:インド人エンジニアと一緒に仕事をしてみて良かった点や想定と違った点はありましたか?
森下:そうですね。何よりもまず、皆さんパフォーマンスを発揮してくれる、という印象です。日本とインドは距離が離れていることもあり、メディアの情報からお互いを知っているためステレオタイプなイメージを持つこともあると思いますが、一緒に働いて思ったことは日本人もインド人も仕事ができる人はしっかり成果をだせるということです。
さらに嬉しいことに、そのようなインド人のメンバーの入社を起点に、メンバー同士がお互いに刺激を得ながら成長できる環境へも変化しています。そこも良かった点ですね。
一方で採用するにあたり、優秀なシニアエンジニアは多くいますが、人材の層が広いので、うちにとって採用すべき人材はどのような方なのかの見極めが必要であり、現在も模索中です。バンガロールやデリー、ベンガルールなどの地域によっても給与水準などが変わるので、判断が難しい所だと思います。
田中:インド人エンジニアの方とのコミュニケーションという観点ではいかがですか?
森下: 大きく変わらないと思います。言語が異なるだけという印象です。特にエンジニアの場合はプログラミングという共通言語がありますし、行っていることも、使用しているツールもそこまで変わらないので意思疎通はそこまで難しくないように思います。
田中:インド国内最難関のインド工科大学のキャリアフェアや、インド国内最大のスタートアップカンファレンス「TechSparks 2023」の参加などを通じて感じられたインドという国の魅力について教えてください。
月井: この国の経済成長への熱気というのは、商談の場やイベント、カンファレンスなどあらゆる所でかなり感じます。積極性や前のめり感があり、自分やサービスをものすごく売り込んできます。私がこれまで日本で仕事をしてきた中であまり身近に感じるものではありませんでした。この国の発展を下支えする共通した熱気・エネルギーみたいなものでしょうか。彼らの学びたい、知りたい、触れたい、成長したいという前のめり感の強さは、日本ではあまり感じることができないものとして凄くポジティブな魅力だと感じています。
田中:CTOの森下様自らがインドに進出し腰を据えて事業に取り組む中で、今後インドでどのようなことを実現したいと考えていますか?
森下:自分がインドに来たのは、現地のメンバーに対するリスペクトが必要である、と思ったからです。自分が現地にいなくても採用を進めることはできますが、インドでエンジニアを採用するにも関わらずエンジニア組織のトップ自らがインドにいないというのは意識が低いと思ったんです。これは僕の個人的な考え方ではありますが…。
またグループ全体で開発できる組織を作りたいと思う中で、そのためにはまず自分自身が現地に行き、インド人と直接話し、そして自らがリードするということを行わなければ理想の組織には近づけないと思いました。
さらには、日本のエンジニア市場に一石を投じたい、という想いもあります。グローバルからエンジニアを採用することによって、日本にも危機感を与えたいんです。インドはシニアレベルのエンジニアでさえも、もの凄く競争をしてると思います。日本人は英語ができる方が少ないので日本国内にとどまる方も多いわけですが、我々みたいなスタートアップが海外から優秀なエンジニアを採用することを見せることできれば、他の企業も英語が話せる人の方がより良いという状態になり、海外にさらに目を向けるのではないかとイメージしています。そのような状態になると英語が話せない日本人はやはり困ってくるはずですし、その状況を打開するために視野を海外にもっと向けたり、さらに競争しようとしたりする日本人も増えると思うんです。結果、日本のエンジニアとしての国力を引き上げることにも繋がると思っています。
月井:会社としては、グローバル向けプロダクトの販売を一つのチャレンジと捉えています。国内では複数のプロダクトやサービスを提供し成長してきましたが、グローバル市場をいかに取りにいけるかが今後の成長の鍵となります。その過程を日本人だけで行うのはやはり難しいと考えています。将来の圧倒的な成長を目指すためには、多国籍からなるチームの土台作りを今のタイミングから行い、下地を積み重ねていきたいと考えています。
田中:実際にINDIGITALのサービスを利用してみていかがでしたか?
月井:かなり助かりました。雇用契約を整えてインド人と一緒に仕事をするための基礎づくりを一貫してご対応いただけたことが良かったですね。この環境をご提供いただけたからこそ、我々は候補者にインタビューをして一緒に働きたい人を見つける、ということにフォーカスできたと思います。
田中:サービスの悪かったところや改善点などがもしあれば教えてください。
月井:悪かったところは特にはないです。敢えていうなら我々の場合は現地法人を設立するか否かという検討前の取り組みがEOR活用の目的だったのですが、おそらくそれぞれの会社さんによって実現したいゴールは異なるところにあると思います。それぞれの会社さんのニーズに合ったパッケージサービスの提供やコンサルティングなどがあると良いかもしれません。そのゴールまでを一緒に伴走するようなイメージです。
田中:なるほど。ありがとうございます。確かにそのようなパッケージサービスのご提案や、より高度なコンサルティングができるようになると良いですね。現状は、EORを活用した(1)リモート拠点設立、(2)トライアル駐在、(3)トライアル雇用、という3つのサービスを提案しているのですが、各企業様に合ったパッケージサービスをコンサルティングと合わせてご提供できるように引き続き尽力したいと思います。
海外IT人材を積極的に活用するEOR(代替雇用)サービスが世界で注目されていますが、一方で高度IT人材不足に直面する日本ではまだ広がっていないように思います。日本企業が海外IT人材を活用していくために必要なことは何だと思われますか?
月井:まずは社内で推進する誰かの力が必要だと思います。海外に挑戦したい、インド人と一緒に仕事をしてみたい、というようなマインドセットや気持ち、感情をもって先頭に立つ人ですね。そして会社はそのような人たちの声に耳を傾けることが必要だと思います。 声を傾けた上で、そのような人たちをまずはインドに中長期的に滞在させて、インドでどのように進めていくかなどじっくりと考える期間をもたせます。いきなり行うのは大変だと思いますので、最初の小さなステップが大切な気がします。
森下:我々の場合もこのスピードでインドに進出する考えは社内になかったんですが、月井さんがずっとインドに進出するべきだと何度も言うので、そこまで言うなら動いてみるか、と(笑)
月井:そうですね。インドプロジェクトを強く推進しました(笑)。ちょうどEORのご契約をする前ぐらいの頃の話です。
森下:日本での採用が限界にきていることは分かっていたため、いつかは海外に行かないといけないという状況ではあったんです。「これは自分が覚悟を決めないと絶対に成功しないだろうな」と思い腹を括りました。また、グローバルでもプロダクトを売っていくぞ、という気持ちもありましたね。
あと、これは他社のCTOの方から聞いた話ですが、新卒でインドからエンジニアを採用し相当大変だった、という話を聞いたんです。それでもその方の話を聞けば聞くほど、やはりインドに行くべきだ、という気持ちになったんです(笑)。それはものすごく苦労はしたものの結果的に良かった、という話も聞いたからです。自分で検証する力も必要だと思っているので、誰かの話をそのまま鵜呑みにするのではなく、実際に行ってみて実際はどうなのかということを我々自身で確かめたい、っていう想いもあります。
田中:それでは最後に、EORの活用を検討している方にぜひ一言お願いします。
森下: EORだからこそ、リスクを取りやすいですよね。挑戦してみて駄目だったら駄目でした、と手放せばいいわけですから。このようなリスクがあるんじゃないか、やはりこうじゃないかなど話している時間がもったいないと感じます。まずは1回試してみて、検証したらいいのではないかと思いますね。
月井:インドがここまで注目されていて、世界中からさまざまな方々が来ている中で、判断を先送りにすること自体を選択肢から外した方がいいのかなと思います。いつ行おうかと悩んでいるのであれば、今動いた方がその経験によって得られる価値は2〜3年後にはもの凄く大きくなると思います。あと我々は逆張りカルチャーなので、多くの方がインドに行かないからこそインドに来た、という(笑)。みなさんがまだEORを使っていない、ということであれば逆にチャンスですよね。
田中:森下様、月井様、本日は大変お忙しい中、貴重なお時間をいただきまして本当にありがとうございました!