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ヘルス・スタックはインドの医療に変革をもたらすのか

2022.09.01 / TRENDS

ヘルス・スタック(Health Stack)はインドの医療に変革をもたらすのか

インドでは、政府主導で「India Stack」というオープンAPIを公開することで、インドの個人識別番号制度Aadhaar(アダール)をベースとしたデジタルサービスの利活用を促進しています。この「India Stack」の医療分野を司る「Health Stack」が、コロナ禍におけるワクチン接種や遠隔医療の促進において、大きな役割を担いました。今回は、これらインド政府の推進するヘルスケアを取り巻く動向についてご紹介します。

なお、India Stackについては、TOPIC_TRENDに掲載中の記事も併せてご覧下さい。

オープンAPI「インディア・スタック」とは(前編)

「インディア・スタック」はなぜ画期的なのか(後編)

インド政府が目指すデジタルヘルスケア・エコシステム

2021年9月27日、インド政府は、オープンで相互利用可能なデジタル・ヘルスケア・エコシステム構築のため、 Ayushman Bharat Digital Mission (以下、ABDMと記す)を発足させました。ABDMは、全国の医療関係者が相互利用可能なデジタル・ヘルスケア基盤の整備を促進し、患者の利便性向上を図ります。

Health Stackの要となるHealth IDは、14桁の固有な番号で構成され、Aadhaarや運転免許証と紐づけて、Webやモバイルアプリで簡単に作成することができます。

例えば、インドの政府サービスポータルサイトCo-WINは、インドの様々な政府機関によって提供されているサービスへシングルウィンドウでアクセスすることを可能にしており、Health IDと紐付けてCOVID-19のワクチン摂取予約や履歴を管理することができます。2022年8月現在で20億回超の摂取実績が登録されています。
また、ArogyaSetuは、普段の生活で接触する可能性のある人々の詳細を追跡記録し、その中の一人がCOVID-19の陽性反応を示すとそれら関連する人々に通知されます。Co-WINとも連携しており、コロナウイルスの感染拡大防止に大きく寄与しました。

Health Stackを担うスタートアップ企業

Health Stackによってスタートアップの参入障壁が低くなり、リープフロッグ現象が起きるのもインドの特徴と言えます。ここでは3つのスタートアップ事例をご紹介します。

1. DRiefcase

インドで初めてABDM展開が承認された個人健康記録アプリです。ユーザーとその家族が医療記録を一元管理し、インターネットでアクセス可能です。WhatsAppと統合することにより、ユーザビリティを向上させています。
(※参考:https://www.crn.in/news/driefcase-becomes-nha-approved-phr-personal-health-records-app-for-ayushman-bharat-digital-mission-roll-out/

2. Docprime health locker

PB Fintechの100%子会社であるDocprime Technologiesは、ABDMと統合したDocprime health lockerを発売しました。ABDMの承認を得た、インド初のABDM統合Health Lockerです。すべての健康記録を安全に電子的に管理し、ユーザーの同意のもと、医師と共有することが可能になります。Co-WINの予防接種証明書を取得・保存することもできます。

(※参考:https://www.livemint.com/companies/news/pb-fintech-subsidiary-docprime-launches-integrated-health-locker-for-users-11640057671840.html

3. Eka Care

ベンガルールに本社を置くスタートアップ企業のEka Careは、患者の健康記録を管理するアプリを開発し、現在50万人近くの慢性疾患の患者が自分の健康記録をデジタルで保存できるようにしました。そして2021年に、ABDMからHealth ID利用の承認を得て、オープン・エコシステムに患者の健康記録を統合できるようになりました。

まとめ

2022年8月3日にインド政府は、個人情報保護法案(the Personal Data Protection Bill 2019)を国会から取り下げて、データプライバシー、インターネットエコシステム、サイバーセキュリティ、通信規制、非個人データの利活用も含めた包括的な法案をあらためて提出する方向です。

このように、センシティブな情報の利活用を促進するためにエコシステムを整備し、利用規制を走りながら検討していく取り組みは、規制強化やベンダーロックインがDXを阻害する要因であることに気付かされます。

セキュリティやプライバシー保護の強化とはある種トレードオフの関係性にある利用者目線での利便性や医療分野における新しい世界が提供し得る付加価値を同時に実現するために、どのような法規制や業界内外での連携が必要となるのか、まさに医療分野のDX・変革を推進しようとしているインド政府の動きに目が離せません。

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