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インドを変えるAI革命 〜OlaのCEOが描く“KRUTRIM”の未来〜

2024.02.03 / COLUMN

(文責:橋口悠雅)

インドを変えるAI革命

〜OlaのCEOが描く“KRUTRIM”の未来〜

1.はじめに

農業、産業、電気、情報と様々な時代で、テクノロジーによる進化が人間の文明を発展させてきました。そして現代では、新たな技術の革新としてAI革命が起こりつつあります。

アメリカのOpenAI社がリリースしたChatGPTを機に生成AIが世界的なトレンドとして注目されている今、IT大国インドにおいても “KRUTRIM”という新たな生成AIが開発されています。

正直な所、私の仕事や勉強は既にAIとの協力で成り立っており、その進化は今後も留まることを知りません。

今回の記事では、変化の激しい現代社会で上手くテクノロジーを活用するべく、生成AIの基礎知識、世界のAI市場におけるインドの重要性、KRUTRIMというLLM(大規模言語モデル)が作るインドの未来について考察していきたいと思います。

インターネットが普及したときは、パソコンやスマートフォンを使いこなせる人とそうでない人の格差は圧倒的だったはずです。AIに関しても同様であり、日々の生活に取り入れているかどうかで、今後の社会に適応できるかどうかが問われてくることでしょう。

(※著者が独自に作成)

2.人工知能(AI)とは

では早速、以下にAIと生成AIの概念、仕組み、種類、そしてその能力と限界を簡単にまとめたいと思います。表面的な使い方ではなく、その基本原理と機能を深く理解することで、効果的な応用方法を探り、その潜在能力を最大限に活用しましょう。(*1)

1AIの概念

簡単に言うとAI(人工知能)とは、人間の知的行動をコンピュータプログラムで模倣する技術のことを言います。1956年、ジョン・マッカーシーによって提唱されたこの概念は、問題解決、学習、認識などの知能の側面を取り入れて来ました。

構造としては、初期の単純なルールベースのシステムから始まっており、特化型AIは特定タスクにフォーカスし、汎用型AIは複数のタスクを理解し実行する能力を持ちます。

(*2)AIの進化フェーズ

今後AIの知識の流用や転用がよりスムーズかつ高精度で可能になれば、ドラえもんやターミネーターのような人型ロボットが存在し始めるかもしれません。

AIの歴史は、初期の大きな期待から一時的な失望(冬の時期)、そして再びの進歩という波を繰り返しており、特に1990年代から2000年代にかけてはビッグデータと計算能力が大幅に進歩しました。

2)生成AIの概念

生成AIとは、人間が行ってきた創造的な作業を自動化し、新しいコンテンツやアイデアを生み出すことができる技術のことです。この技術の核心は「ディープラーニング(深層学習)」と呼ばれる機械学習の一種で、大量のデータからパターンを学習し、それを基に新しい出力を生成する能力にあります。

ディープラーニングを基盤とする生成型ニューラルネットワークで代表的なものは、生成敵対ネットワーク(GANs)、変分オートエンコーダー(VAEs)、変換ネットワーク(Transformers)などの異なるモデルが挙げられます。

(*3)生成AIの仕組み

従来のAI(入力あり学習を主体とするAI)は、人間が提供したデータとその答えを基に学習し、既存の情報から最適な回答を導き出すことが主な機能でした。

それに対して、生成AIは既存のデータを参考にしながらも、新しい情報やアイデアを創出する能力を持っています。

要するに、AIが自己学習を通じて未知の領域へと進出し、人間が提供していない情報やデータを基に新しいコンテンツを作り出すことができることを意味します。

3)生成AIの種類

現代の生成AIは、広告、エンターテイメント、教育などの多岐にわたる分野で既に活用されており、将来的には医療、建築、ファッションなどの分野でも応用的な使用が拡大していくと期待されています。

そして現段階で、特に開発が進んでいる主な生成AIは、画像生成、テキスト生成、動画生成、音声生成という4つになります。(*4)

3-1.画像生成

画像生成AIは、テキストからリアルタイムで画像を生成する革新的な技術です。この技術は特に、デジタルアートやグラフィックデザインの分野で大きな可能性を秘めています。

例えば、アーティストやデザイナーは、具体的なテキスト指示に基づいて独自のビジュアルコンテンツを瞬時に作成できるため、広告やソーシャルメディアのコンテンツ制作にも役立ち、時間とコストの削減することが出来ます。

この技術の応用は広範囲にわたり、新たな芸術的表現の形態を生み出すことでしょう。

Stable Diffusion

高度なAIアルゴリズムを用いて、ユーザーの指示に応じた詳細な画像を生成。

Canva

デザインツールとして知られ、AIを利用してユーザーの要望に応じた画像を提供。

3-2.テキスト生成

テキスト生成AIは、記事作成、チャットボット、コード生成など多岐にわたる用途で利用されている技術で、自然言語処理(NLP)の進展により、人間に近い文章を生成する能力を持つようになりました。

例えば、ニュース記事やブログ投稿の自動作成、顧客サービスのためのチャットボット、あるいはソフトウェア開発におけるコードの自動生成などに活用されています。

これにより、時間とリソースの節約はもちろん、創造的なプロセスの支援にも使われています。

ChatGPT

多様なトピックにわたる質問に対して、人間らしい回答を生成。

Google Bard

Googleの強力な検索機能と組み合わせたAIにより、情報を基にした詳細なテキストを生成。

3-3.動画生成

動画生成AIは、短いクリップの生成から映画や広告ビデオの製作まで、幅広い分野で応用が可能です。この技術は、テキストや画像から動画を生成する能力を持ち、ユーザーの要望に応じてカスタマイズされたビデオコンテンツの作成も手掛けることが出来ます。

特に、映画や広告業界においては、制作コストの削減や新たな視覚的表現の探求に貢献、教育業界においてはトレーニング用のビデオ制作、というようにリソースの限られた環境でのコンテンツ制作を容易にします。

RUNWAY

ユーザーの指示に基づいて短い動画クリップを生成し、ビジュアルコンテンツの創作を支援。

3-4.音声生成

音声生成AIは、ポッドキャスト、オーディオブック、AIボイスアシスタントなど多様な分野での応用が期待されており、この技術はテキストから自然に聞こえる音声を生成し、特定の声質やアクセントを模倣することも可能です。

例えば、オーディオブックのナレーションや、多言語対応のAIアシスタントの声を作成する際に利用されます。さらに、音声合成技術の進化は、障害を持つ個人のコミュニケーション支援にも貢献するかもしれません。

Voicevox

特定の声質を模倣して、リアルな音声合成を実現。

CoeFont

個人の声の特徴を学習し、それに近い音声を生成する技術を提供。

4)生成AIの能力と限界

これまでの内容を見るに、生成AIは現代社会において既に多大な影響を与えており、その能力は多岐にわたる分野で価値を証明していることが分かります。

しかし、その一方で、これらの技術がもたらす様々な課題や限界にも注意を払わなければ、不適切な使用によって他者に危害を及ぼす可能性があります。

以下では、生成AIの能力と限界に関する重要な点を簡単にまとめたので、AIリテラシーのある使い方ができるよう見ていきましょう。

4-1.生成AIの能力

生成AIの能力は多方面で顕著であり、特に三つの領域においてその威力を発揮しています。一つ目は、テキスト、画像、動画、音声といった幅広いコンテンツを迅速にかつ高品質に生成することで、クリエイティブな作業を劇的に効率化し、生産性を大幅に高めている点です。

次に、ビッグデータを分析して洞察を得ることにより、ビジネスの意思決定や市場分析において明瞭な判断を下していくこと。

三つ目は、個々のユーザーの好みや行動に合わせたパーソナライズされた体験を提供することが可能で、マーケティングや製品設計に新たな一歩を踏み出させるという能力です。

4-2.生成AIの限界

しかし、生成AIの限界に目を向けると、いくつかの点で重要な問題も浮かび上がってきます。それらには、著作権の侵害や偽情報の拡散など、倫理的および法的な問題が多く、人間の微細な感情や複雑な意図を完全に理解していないAIだと、時には適切でないコンテンツを生み出すリスクも存在します。

トレーニングデータの質に大きく依存するため、偏ったデータセットは偏見を含んだ結果を生み出す可能性を秘めており、継続的な監視と倫理的、法的なガイドラインへの厳格な遵守が欠かせません。

3.世界のAI市場におけるインド

統計データや市場データなどの提供を行うStatista社によると、2022年の世界のAI市場は約137億ドルと評価されており、2030年までには約1,812億ドルに達すると予測されています。

このような急速な成長は、AI技術の進展とその幅広い応用によるもので、前文で挙げた4つの能力がより進化していけば、製造、医療、金融、教育、自動車など、かなり多くの産業に革命をもたらすかもしれません。

(*5) Statista社が調査したAI市場の推移

インドに絞ったAI市場の成長を見ても、2022年に約6億8000万ドルだった評価額が、2028年までには約39億3550万ドルに成長すると予測されています。

これは、インドにおけるAI技術が急成長を遂げる可能性を示しており、AI技術の研究開発、導入、応用において重要な役割を果たしていくことが考えられます。

特に、その豊富な技術人材、強力なITインフラ、そして政府によるAIとデジタル技術へ期待が高いインドでは、スタートアップへの資金提供、研究機関への支援、教育プログラムの開発などに賭ける資金を惜しみません。

総じて、インドのこのような成長は、世界のAI業界に多大なインパクトを与え、国際的な技術革新の新たな波を引き起こすことに繋がるでしょう。

4. KRUTRIMが描くインドの未来

KRUTRIMは、Olaの創業者であるバヴィッシュ・アガルワール(Bhavish Aggarwal)によって設立されたインド初のAIユニコーン企業で、インドの多様な言語と文化に特化した大規模言語モデル(LLM)の開発に取り組んでいます。

(*6)Ola創業者バヴィッシュ・アガルワール

1)KRUTRIMの特徴

KRUTRIMとは、インドの古語であるサンスクリット語で”Artificial”を意味しており、2024年1月の先行者リリースから、わずか1ヶ月で10億ドルの評価額、5千万ドルの資金調達を達成し、2024年インド国内初のユニコーン企業になりました。来月にはチャットボットのベータ版を消費者向けに公開し、それに続いて開発者や企業向けにAPIを展開する予定であるとのこと。以下には、KRUTRIMの特徴を3つにまとめたので、何が注目されているのかを把握しておきましょう。(*7)

1-1.インド国内の多言語理解

KRUTRIMは、20のインド言語を理解し、10の言語でコンテンツを生成する能力を持っています。例えば、ユーザーがベンガル語で環境問題について尋ねた場合、KRUTRIMはベンガル語だけでなく他の言語ベースの資料からも科学的で文化的に適した回答を導き出します。

教育分野では、この技術を活用して、地域言語でカスタマイズされた教材を提供することが可能になり、言語の壁を越えて知識を共有する道が開かれます。

1-2インド文化への適応性

KRUTRIMは、単に言語を理解するだけでなく、インドの独特な文化や価値観を反映した対話を行うことができます。

例えば、ケーララ州のオノム祭りに関する質問に対し、その伝統や地域特有の食文化についてのビッグデータが他の生成AIモデルと違って多いため、より自然で親しみやすいユーザー体験が可能になります。

また、医療分野では、地域固有の健康問題や伝統治療法に関する情報を提供し、パーソナライズされたアドバイスの提供も出来るようになると予想されます。

1-3問題解決やタスク実行の高度な技術

2兆以上のトークンを処理するKRUTRIMは、インド特有のニーズに特化したAIモデルを構築しています。地域の新聞記事や文学作品、ソーシャルメディアの投稿など多岐にわたるソースから学習し、日常会話からビジネスコミュニケーション、教育コンテンツまで幅広く対応することが可能で、継続的な学習を通して、AIは常に最新の言語パターンや文化的トレンドを反映します。

2)インド経済への影響

これらの特徴を踏まえると、KRUTRIMは特にインド経済の成長に重点を置いており、AIの時代をリードするインドにとって重要なターニング・ポイントとなることが期待されます。同社はブログの投稿にて、「AI開発のためのスーパーコンピューターエコシステムをインドで作成することを目指している」と述べており、インド全国でデータセンターの開発を進めています。では、このKRUTRIMがインド国内のIT技術者、ビジネスパーソン、一般市民の間で使われ始めると、どのようなインド経済への影響が考えられるのでしょうか。(*8)

2-1新たな産業の創出

多言語AI技術は、新たな市場機会を生み出しており、KRUTRIMに関してもインドの地域言語を活用したカスタマーサポート、教育、エンターテイメント分野での応用されることが期待されます。また、地方言語に特化したデジタルマーケティングサービスやオンライン教育プラットフォームの開発が、地方経済の活性化と新しい雇用機会の創出に寄与します。

2-2経済的効率化

AI技術による業務の自動化と効率化は、企業の生産性向上につながります。特に、多言語対応の顧客サポートシステムは、迅速かつ正確な問い合わせ処理を可能にし、顧客満足度を高めることが出来るでしょう。多様な言語がまじりあっているインドにおいても、言語データの分析を通じて市場トレンドを把握し、ビジネス戦略を効果的に立てることが可能になります。

2-3技術イノベーションの促進

KRUTRIMのような企業は、インドにおける技術革新の先駆者となります。特に、AIチップの自社開発は、国内技術産業の自立と進化を促進する重要なステップです。これは、国内の技術研究開発の自立化を促進し、海外投資家からの関心を集め、インドがグローバルな技術イノベーションの舞台で重要な役割を果たす基盤を築きます。

5.まとめ

本記事では、生成AIに関する基礎知識、世界のAI市場におけるインドの重要性、KRUTRIMが作るインドの未来、という内容を解説してきました。

AI(人工知能)が人間の能力を超越し、それによって人間の生活に大きな変化が起こることを『シンギュラリティー』と総称されますが、既に人間に不可能なことをAIが代替する時代は来ているのかもしれません。特に、KRUTRIMの登場は、インドにおけるAI技術の新時代の始まりを告げています。この先進的な多言語AIは、文化的多様性を尊重しつつ、経済成長を促進する強力なツールとなることでしょう。インドが世界のAI技術分野で重要な役割を果たすことが期待されている今、生成AIとは何か、インドおよびKRUTRIMがもたらす未来を理解しておくことは、読者の皆さん人生をより創造的なものにするはずです。

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※本記事の参考サイト一覧

(*1) 生成AIとは?注目される背景、種類や仕組みを解説 (techfirm.co.jp)

(*2) 次なる照準は「汎用型人工知能」 最先端の研究はマーケティングをどう進化させる? | 宣伝会議デジタル版 (sendenkaigi.com)

(*3) 生成AI(ジェネレーティブAI)とは?ChatGPTとの違いや仕組み・種類・活用事例 | DOORS DX (brainpad.co.jp)

(*4) 【2023年】話題のジェネレーティブAI ツール特集 – to inc マーケティングを企業のスタンダードに (to-inc.co.jp)

(*5)Artificial Intelligence market size 2030 | Statista

(*6) Krutrim Achieves India’s First AI Unicorn Status – Multiplatform AI

(*7)Ola founder’s Krutrim becomes India’s first AI unicorn | TechCrunch

(*8)Krutrim can outperform GPT-4 in 6 Indian languages! 10 things to know about Ola’s AI platform | Mint (livemint.com)

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