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インド市場攻略の新戦略、EOR活用で何が変わる?

2024.03.10 / COLUMN

(文責:田中啓介)

インド市場攻略の新戦略、EOR活用で何が変わる?

はじめに

インド市場はその巨大な人口と経済成長のポテンシャルにより、世界中の企業にとって魅力的な進出先となっています。しかし、文化的差異、複雑な法制度、労働市場の特性など、多くの挑戦も存在します。これらの障壁は、特に新規参入企業にとって大きな課題となり得ます。本記事では、これらの問題を解決し、インド市場へのスムーズな進出を実現するための新戦略として「Employer of Record(EOR)」の活用を提案します。なぜなら、EORを活用することで、企業は現地の複雑な法規制や人材採用の問題を効果的に乗り越え、事業拡大の新たな機会を掴むことができる第一歩になると考えているためです。

第1部: インド市場進出の課題

日本企業にとってインド市場は、その巨大な人口と急速な経済成長により、莫大なビジネスチャンスを秘めています。しかし同時に、この魅力的な市場に足を踏み入れることは、多くの課題をともないます。ここではまず、インド市場進出時に直面する主要な課題に焦点を当ててご説明したいと思います。

1. 市場理解にかかる時間と労力

インドは多様な文化、言語、宗教が混在する国であり、その市場の複雑さは計り知れません。各地域によって消費者の嗜好や購買行動が大きく異なるため、一般的な市場調査だけでは不十分で、あらゆる観点からの地域性を考慮し、地域特有のビジネス慣習への深い理解と適応が求められます。新規参入企業は、現地インドに一定期間は住み込むことによってこれらの差異を肌感覚として深く理解し、適切な市場戦略を策定するために相当な時間と労力を費やす必要があると考えています。

2. インド人材のパフォーマンスと相性

多くのケースにおいてインド進出のプロセスとは、インド人材と二人三脚で事業を立ち上げることに他なりません。一方で、インド人材に期待できるパフォーマンスの予測不可能性と文化的違いによる相性の問題を含む複数の課題に直面します。優秀なマネジメント人材や、高い技術力・英語力を持つ人材が多い一方で、企業文化や働き方の違いにより、期待するパフォーマンスを発揮できない場合も少なくありません。また、労働市場のダイナミズムは、採用後の人材流動率の高さにも繋がり得るため、長期的な人材戦略を構築する上での課題となります。

3. 税務、労務、コンプライアンスのコストとリスク

インドでビジネスを展開する際には、複雑で厳格な税務、労務、その他の法規制への準拠が必要です。現地法人の設立は、これらの法規制に適合するための初期投資と継続的な管理・運用コストを必要とし、特に中小企業にとって大きな負担となり得ます。さらに、法律や規制の頻繁な変更は、コンプライアンス遵守をさらに複雑にし、違反時には重い罰金や事業の中断といったリスクに直面する可能性があります。

第2部: EOR活用による解決策

インド市場への進出は多大な機会を秘めているものの、前述のとおり企業は多くの課題に直面します。これらの課題に対処し、ビジネスの成功確度を高めるための有効な戦略が、Employer of Record(EOR)の活用です。以下では、EORがインド市場進出の主要な障壁をどのように解決するかを探ります。

1. 市場進出の柔軟性確保

インド市場への進出は膨大な時間とリソースを要するプロセスです。EORを活用することで、企業はこの新しい市場への進出リスク・コストを軽減しながら、効率的かつ効果的に進出することができるようになります。具体的には、EORを通じてインド現地に自社専属の人材配置を行い、包括的な市場調査と進出戦略の策定にじっくりと時間をかけることで、地域特有のビジネス慣習や消費者動向に関する現場感のある直接的な洞察を得ることができます。これにより、企業はインド進出にかかるリスク・コストを軽減しながら、身軽にかつ柔軟にインド市場に参入するための道筋を描き、そのための準備を進めることができるようになり、より確度の高い競争優位性を確立することが可能になります。

2. 人材確保と管理の最適化

インド進出の成功は、適切な人材の確保と管理に大きく依存します。EORを活用することで、インド現地に根ざした人材採用から質の高いオンボーディング対応、人材管理を実現し、日本企業に代わってこのプロセスを最適化します。EOR事業者は、企業の要件に最も適した人材を選定し、採用からオンボーティング、継続的な管理に至るまでを包括的にサポートします。さらに、文化的違いは従業員のパフォーマンスと企業文化への適応に影響を及ぼす可能性があります。当社INDIGITALは、文化的な障壁を乗り越え、かつ、効果的に協働し成果を出す力(CQ : Cultural Intelligence)を培ってきたメンバーが文化的な架け橋として機能し、異文化間の理解を深めるために伴走支援します。これにより、企業は多様性を受け入れ、グローバルな視野を持つ人材を育成することができます。

3. 法的コンプライアンスとリスクの軽減

インドでビジネスを行う上での最大の課題の一つが、税務、労務、その他各種法規制への準拠です。EORを活用することで、企業はこれらの法規制に関する専門知識を持つパートナーを得ることができ、法的リスクを大幅に軽減することができます。原則、EOR事業者側がインド国内の各種法令遵守に対する責任を負うこととなるため、日本企業は法的な問題によるビジネスへの支障や中断のリスクを大幅に減少させることができます。つまり、EORは日常的に発生する労務・税務相談への対応に加えて、万が一の際の労務問題の解決など、日々の運営に関わる多くの複雑なプロセスを代行し、日本企業が本業に集中できるような環境を提供することができるのです。

第3部: EOR導入の実践ガイド

Employer of Record(EOR)の活用は、インド市場への進出と現地での事業展開を加速する強力な手段です。ここでは、EOR事業者の選定から導入、そして活用事例までを掘り下げます。

適切なEOR事業者の選び方

EOR事業者を選定する際には、主に以下4つを評価基準に基づいて選定することが推奨されます。この中でも特に重要なのが「専門知識」です。インド現地の税務・労務・法務に対する深い理解・経験を有しているかによって、EOR活用後のリスク管理(特にPE課税対策や労務管理体制の構築など)に大きな影響を与えます。

1. 専門知識          :インドの税務および労務、法規制に対する深い理解と専門知識。
2. 信頼性と実績  :長年にわたる運営実績と、高い顧客満足度が証明する信頼性。
3. 柔軟性              :企業のニーズに合わせてカスタマイズ可能なサービス提供。
4. サポート体制  :強力な現地サポートチームと、迅速な対応能力。

実践事例1:リモート開発拠点の設立

日本企業が将来的にインドに自社のソフトウェア開発拠点を設立することを見据え、EORを活用してリモート開発拠点を試験的に設立する事例です。EORは、優秀な開発者の採用、入社時のオンボーディング、日常の労務管理までを幅広くサポートし、企業は遠隔地からでも効率的にプロジェクトを推進することができます。このアプローチにより、日本企業はインド人ソフトウェアエンジニアのパフォーマンスに対する理解および連携能力を高め、将来の本格的なインド進出に向けた基盤を築くことができます。(もし、将来的に自社の現地法人を設立した場合には、リモート開発拠点のメンバーを全員転籍させることでスムーズな事業立ち上げが実現可能です。)資料ダウンロードはこちら

実践事例2:トライアル駐在

インドに営業・販売拠点として現地法人を設立する前段階として、EORを利用したトライアル駐在の事例。EOR事業者は、日本人出向者の受け入れ(代替雇用)、FRRO外国人登録、PAN相場感の取得、現地ルピー建口座開設サポート、住居や勤務場所の提供、現地での生活立ち上げのサポートを提供します。日本企業は現地法人を設立することなく試験的に日本人駐在員をインドに派遣することで、市場調査やビジネス上の人的ネットワークの構築、顧客ニーズの把握などを行い、インド現地に住み込むことでリアリティある現地市場のポテンシャルを探ることが可能となります。資料ダウンロードはこちら

実践事例3:トライアル雇用

EORを通じてインド人材をトライアル雇用し、将来的には日本語教育を施して日本での就業を目指す事例。雇用契約書上の試用期間を活用したトライアル期間中はEOR事業者が法的雇用主となり、インド側の入社時のオンボーディング対応から給与計算、税務コンプライアンス対応、社会保障の提供をし、かつ、日本企業の現地パートナーとして労務管理体制の構築において伴走支援します。この期間を通じて、企業は候補者のスキルと適性を評価し、最終的に日本国内での長期雇用に繋げます。資料ダウンロードはこちら

さいごに

Employer of Record(EOR)の活用は、日本企業にとってインド市場進出における重要な戦略のひとつです。EORは、現地の税務、労務、コンプライアンスの複雑さを簡素化し、身軽で柔軟なインド進出を実現する手助けをします。また、EORを活用することで、日本企業は人材採用と労務管理の効率化を図り、法的リスクの軽減や運営コストの削減が可能となります。インドへの事業展開を検討している日本企業にとって、EORは柔軟性と効率性をもたらすインド市場攻略の新戦略なのです。

付録: FAQ

A1: はい、可能です。通常設定される6ヶ月間の試用期間(Probation Period)内であれば無条件に契約解消は可能ですし、試用期間終了後であったとしても、EOR事業者と協力して適切な手続きを踏むことで、契約を解消することができます。

A2: EORを利用することの一つの利点は、PE認定のリスクを軽減することです。EOR事業者が従業員の法的雇用者となるため、原則、クライアント企業自体が直接現地にPE(恒久的施設)を有することなく業務を行うことが可能になります。なお、インドにおけるPEの有無については、クライアント企業(非居住者)が事業を行う一定の場所があるか、また、それらの事業を行う代理人がいるかどうかという点で評価をし、PE課税リスクの経済的影響については、PE帰属所得(当該PEがインドで事業活動をしたことによって非居住者が得た所得)のインパクトが大きいかどうかで評価をします。別途有償にはなりますが、当社INDIGITALがインド勅許会計士とともに開発した『PE課税リスクチェックリスト』に基づき、御社の状況に基づくPE課税リスク評価と評価結果に基づく対応策のご提案をすることも可能です。EORに関するPE課税の詳細についてはこちらの記事もご参照ください。

A3: はい、利用可能です。EORサービスは、国籍を問わず、日本企業がインドで従業員を雇用したい場合に利用できます。これには、インド国内で日本人を現地採用するケース(現地採用モデル)も、インドに本社の日本人従業員を駐在させるケース(在籍型出向モデル)も含まれます。なお、インドに営業・販売拠点を設立することを見据えて日本人がEORを活用するようなケースでは、当該日本人現地採用者もしくは日本人出向者がクライアント企業(非居住者)の営業活動をインド国内で直接的に実施するものではなく、あくまで将来的なインド進出を見据えた(市場調査やビジネス上の人的ネットワークの構築、顧客ニーズの把握等のプロセスを通じたインド事業立ち上げのための)職業能力開発の一環としてインドで活動を行う」という整理をします。

A4: 家族帯同の可否は、EOR事業者によって異なりますが、当社INDIGITALではご家族のビザ取得やFRRO外国人登録、PAN税務番号取得、ルピー建銀行口座開設サポートなど家族帯同に関連する付加サービスを提供しています。ご契約前にこれらの点はEOR事業者に確認することが重要です。

A5: EOR事業者は、従業員がクライアント企業の業務を遂行するための支援を提供しますが、通常、メールアドレスの設定もクライアント企業の責任のもとで行われます。従業員がクライアント企業の一員として働くことが多いため、クライアント企業ドメインのメールアドレスが発行され、EOR事業者にそれを貸与する形で業務を行うことが一般的です。

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