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2026.07.20 / COLUMN
「インド人材を採用したいが、結局のところ、いくらかかるのか?」
インド進出やインド人材の採用を検討される日系企業の皆さまが、検討の過程で直面しやすいテーマのひとつです。求人媒体、人材紹介、RPO(採用代行)——手法はさまざま。給与も「日本より安いらしい」という漠然としたイメージはあっても、いざ予算を組もうとすると、途端に霧がかかったようにわからなくなる。そんな声をよく耳にします。
しかも、インドの採用にかかる費用は「採用したときに一度払って終わり」ではありません。給与そのもの、法律で定められた会社負担、そして日本人が最も見誤りやすい「昇給ペース」——これらを含めた総額(トータルコスト)で捉えないと、進出後の人件費計画は必ずと言っていいほどブレます。
この記事では、インド採用にかかる費用を「採用時」「給与(ランニングコスト)」「採用後に効いてくるコスト」の3つに分け、公的機関・専門調査の最新データに基づいて、できるだけ具体的な数字でお伝えします。費用感を掴んでから、次の一手を検討していただくための地図として使っていただければ幸いです。
💡 本記事のポイント
- ・インド採用費用は「採用時コスト」「給与=ランニングコスト」「採用後の隠れコスト」の3層で捉える
- ・給与そのものより、年9%前後の昇給ペースと離職による採り直しコストが総額を大きく左右する
- ・2025年11月施行の新労働法(詳細規則・州ごとの適用は順次進行中)により、法定負担(PF・退職金)の計算基盤が見直され、給与設計によっては企業コストが増える可能性がある
※本記事の金額は、原則として現地通貨(ルピー)で表記し、参考として日本円換算を併記します。円換算は「1ルピー=約1.7円」で統一しています(2026年7月時点の為替レートに基づく概算)。為替は日々変動するため、円換算はあくまで目安としてご覧ください。
※なお、給与相場・手数料・昇給後の試算といった推計値には原則「約」を付し、幅のある目安として記載しています。一方、PF(Provident Fund:インドの公的な積立型年金制度)・ESI(Employees’ State Insurance:インドの公的な医療・傷病・労災などを保障する社会保険制度)・退職金・賞与など法律で定まった料率・上限は、正確な数値(=「約」なし)で記載しています。

まず全体像です。インド採用でかかる費用は、大きく次の3つに分けると整理しやすくなります。
| フェーズ | 主な費用 | 特徴 |
|---|---|---|
| ① 採用時コスト | 求人媒体費/人材紹介手数料/RPO費用/自社工数 | 一度きり。ただし採り直しのたびに発生する |
| ② 給与=ランニングコスト | CTC(会社負担総額)=基本給+各種手当+会社負担のPF等 | 毎年発生し、昇給で年々膨らむ |
| ③ 採用後の隠れコスト | 法定負担(PF・ESI・退職金・賞与)/福利厚生/離職に伴う採り直し | 見落とされやすく、総額を大きく押し上げる |
日系企業がつまずきやすいのは、①の「採用時コスト」ばかりに目が向き、②③を軽く見積もってしまう点です。特にインドは昇給率が年9%前後と日本の数倍のペースで、放っておくと人件費は数年で大きく膨らみます。以下、フェーズごとに数字を見ていきましょう。
インドでの採用ルートは、主に次の4つです。それぞれ費用構造が異なります。
| 手法 | 費用の目安 | 向いているケース |
|---|---|---|
| 求人媒体(Naukri等) | 掲載料・データベース利用料(月額〜年額契約) | 母集団を自力で集められる/採用件数が多い |
| 人材紹介(エージェント) | 成功報酬型:採用者の初年度CTCの約20〜35%が中心(市場相場・公的統計なし) | 特定スキル・急ぎ・自社に採用リソースが乏しい |
| RPO(採用代行) | 月額固定+成果報酬など、契約により多様 | 継続的に複数名を採用する/採用機能を外部化したい |
インドの人材紹介(成功報酬型)の手数料は、採用者の初年度CTCに対する料率で決まるのが一般的です。この手数料に公的な統計はなく、エージェントによって幅がありますが、多くのケースで初年度CTCの約20〜35%程度です(幹部・エグゼクティブ層ではさらに高くなる場合があります)。
金額のベースが「基本給」ではなく「CTC(会社が負担する総額)」である点は、日本の紹介手数料(理論年収ベース)と考え方が近い一方、インドではCTCに会社負担分まで含まれる点に注意が必要です。
「エージェントを使わず自社で採れば無料」というわけではありません。インドはオファー後の辞退率が高く、内定を出しても入社日に現れない「No-Show」も実務上よく課題になります。求人媒体での母集団形成、書類選考、複数回の面接、オファー交渉、そして辞退された場合の採り直し——これらにかかる採用担当者の工数(時間)は、立派なコストです。特に日本から遠隔で採用活動を行う場合、時差・言語・商習慣の違いによって、想定以上の時間を要するケースが多く見られます。
インドの給与提示は、日本の「額面◯◯円」とは考え方が根本的に異なります。インドでは CTC(Cost to Company=会社が負担する総額) で提示するのが一般的で、この中には基本給だけでなく、各種手当、賞与(変動給)、さらに会社負担分のPF(積立年金)まで含める企業が多いのが特徴です(何をCTCに含めるかは企業により異なります)。
つまり、候補者に「CTC 15 LPA(Lakh Per Annum:年収を「1 Lakh=10万ルピー」単位で表す指標)」と提示しても、本人の手取り(Take-home)はそれよりかなり少なくなります。この構造を理解しないままオファーを出すと、「聞いていた額と違う」というトラブルの原因になります。
さらに、同じ「15 LPA」でも、Basic Salary(基本給)の設計やCTCへの福利厚生の含め方によって、企業負担額や従業員の手取りは変わります。そのため、同じ年収水準でも企業間でコスト構造は異なります。特に、後述する新労働法(賃金の定義が見直され、基本給の比重を高める方向の制度変更)は、この「基本給の設計」に直接効いてくる論点です(詳しくは後半で解説します)。
CTCの内訳や設計の考え方については、弊社の別記事でも詳しく解説していますので、あわせてご参照ください。
「CTCって何ですか?」—インド人材採用で最初にぶつかる壁を、一緒に乗り越えよう
給与水準は、①職種、②経験、③都市の3要素で決まります。ここでは、GCC(外資系グローバル拠点)向けソフトウェアエンジニアの給与相場を代表例として、市場の一般的な目安をご紹介します。IT・ソフトウェア職はインドで最も需要が高い職種の一つで、給与水準の「上限側」を示す職種です。
| ポジション | 経験年数 | 年収(CTC・LPA) | 日本円換算(概算) |
|---|---|---|---|
| ジュニアエンジニア | 0〜3年 | 約6〜12 LPA | 約100〜200万円 |
| シニアエンジニア | 3〜7年 | 約12〜25 LPA | 約200〜425万円 |
| リード/テックリード | 7〜12年 | 約25〜45 LPA | 約425〜765万円 |
| プリンシパルエンジニア | 12年以上 | 約35〜80 LPA | 約595〜1,360万円 |
| エンジニアリングマネジャー | - | 約40〜80 LPA | 約680〜1,360万円 |
※上表は市場の一般的な目安です。複数の給与情報を総合したもので、特定の単一調査による公表値ではありません。実際の額は企業・スキル・都市により変動します。
なお、専門調査会社Zinnovの調査(Salary Increase, Attrition & Hiring Trends in GCCs 2025)によれば、外資系GCCの給与は国内IT企業(サービス系)より約15〜22%高い傾向があり、AI・クラウド等の需要過熱スキルはさらにプレミアムが乗ります。
IT・ソフトウェア職を「上限側」とすると、他の職種はおおむね次のように位置づけられます。なお、製造・バックオフィス等の職種別の正確な金額は、公開された専門機関データが乏しいため、本記事では具体額の断定を避け、相対的な傾向としてお示しします。正確なオファー額は、最新の給与調査や実際の採用市場に基づく個別試算が必要です。
同じ職種でも、都市によって給与水準と生活コストは大きく異なります。
| 都市 | 特徴 |
|---|---|
| ベンガルール(Bengaluru) | IT・スタートアップの中心地。給与水準は最も高い |
| ムンバイ | 金融・シニア管理職の給与が高い |
| デリー首都圏(グルガオン等) | 幅広い業種。給与は高め |
| プネー/チェンナイ | 主要都市より給与・生活コストとも低め。コスト効率重視のGCC進出先として人気。チェンナイは製造業エコシステムも強い |
| ハイデラバード | ITと製薬。コストと人材のバランスが良い |
拠点都市の選定は、給与だけでなく人材の獲得しやすさ・定着率・生活コストを総合して判断することが、長期的なコスト最適化につながります。
給与を決めたら終わり、ではありません。インドには法律で定められた会社負担があり、これらは給与とは別に(あるいはCTCの一部として)確実に発生します。
| 制度 | 会社負担率 | 対象・上限など | 出典 |
|---|---|---|---|
| PF(Provident Fund=積立年金) | 基本給+DA※の 12% | 従業員20名以上の事業所。年金部分(EPS)は月額賃金15,000ルピーを上限に算定 | EPFO(インド被用者積立基金機構) |
| ESI(被用者州保険) | 賃金総額の 会社3.25%(+従業員0.75%=合計4.0%) | 月給21,000ルピー以下の従業員(現行)/10名以上の事業所 | ESIC(被用者州保険公社) |
| 退職金(Gratuity) | 「最終月の基本給+DA × 15 × 勤続年数 ÷ 26」で算定 | 10名以上の事業所。非課税上限20 lakh=200万ルピー(約340万円) | 退職金支払法(Payment of Gratuity Act) |
| 賞与(Statutory Bonus) | 対象賃金(基本給+DA・月額上限あり)の 8.33〜20% | 20名以上の事業所。適用対象は月給21,000ルピー以下の従業員 | 賞与支払法(Payment of Bonus Act) |
※表中の「DA」は Dearness Allowance(物価手当)。インドで基本給に加算される、生活費を補うための手当です。
これらは「CTCに含まれる会社負担分(PF等)」と「CTCとは別に発生しうるもの」が混在するため、オファー設計の段階でどこまでをCTCに含めるかを明確にしておくことが重要です。
2025年11月21日、インドで4つの新労働法(Labour Codes、29の労働法を4つに統合)が施行されました(政府DD News・EY India)。ただし、施行後も詳細規則(Rules)の整備が段階的に進み、中央政府は2026年5月8日に最終規則(Central Rules 2026)を通知しました。州ごとの規則整備・一律運用は現在も順次進行中で、具体的な影響は最終規則と各州の適用状況によって固まっていく段階にあります。採用・給与設計を進める際は、必ず最新の施行・規則状況を確認してください。
それでも、費用面で押さえておくべき方向性ははっきりしています。鍵となるのが、一般に「50%ルール」と呼ばれる賃金定義の見直しです。ざっくり言えば、諸手当を除いた「賃金(基本給+DA等)」が総報酬のおおむね半分以上を占めるように設計する、という考え方で、これにより:
これまで「賃金を低く抑え、手当を厚くしてPF負担を圧縮する」設計が広く使われてきましたが、新労働法のもとではこうした設計の見直しが必要になります。進出後の人件費は、この方向性を織り込んで計画することをおすすめします。
法定外の福利厚生も、採用競争力を左右します。特にグループ医療保険(本人+家族)は、優秀な人材を惹きつけ、定着させるうえで事実上の標準装備になりつつあります。ここを「ケチらない」ことが、結果的に離職を防ぎ、後述の採り直しコストを抑えることにつながります。
インド採用の総額を語るうえで、昇給率は避けて通れません。日本の感覚(年1〜3%)で計画を立てると、数年で人件費が想定を大きく超えます。
大手人事コンサルティングのAonの調査(2026年2月発表、1,400社以上・45業種を対象)によるインドの平均昇給率は以下の通りです。
| 年 | インド平均昇給率 |
|---|---|
| 2025年(実績) | 8.9% |
| 2026年(予測) | 9.1% |
業種別の2026年昇給率予測
| 業種 | 昇給率 |
|---|---|
| 不動産・インフラ | 10.2% |
| NBFC(ノンバンク金融) | 10.1% |
| 自動車・車両製造 | 9.9% |
| エンジニアリング設計 | 9.9% |
| 技術プラットフォーム・製品 | 9.4% |
年9%の昇給が複利で効くと、人件費は約8年で倍増します。たとえばCTC15LPAで採用したエンジニアは、年9%昇給が続けば5年後には約23LPA、10年後には約36LPAに達します。この「膨張」を織り込まずに予算を組むと、数年後に必ず苦しくなります。
さらに見落とされがちなのが、離職に伴う採り直しのコストです。人が辞めれば、また採用手数料・工数がかかり、引き継ぎや立ち上がりの生産性ロスも生じます。
つまり、需要の高いスキル人材ほど「2年前後で辞める」前提でコストを見ておく必要があります。採用費用は「一度払えば終わり」ではなく、離職率 × 採り直しコストとして繰り返し発生する——この視点が総額管理の鍵です。

ここまでの数字を、経験3〜7年のソフトウェアエンジニア1名(採用時CTC 15 LPA=約255万円)を例にまとめます。
初年度にかかる総コスト一覧(目安)
| 費目 | 金額の目安 | 円換算(概算) | 備考 |
|---|---|---|---|
| ① 給与(基本給+各種手当+賞与) | ─ | ─ | 本人の年収の中心。CTCの大部分 |
| ② 会社負担の法定コスト(PF等) | ─ | ─ | CTCに内包(PFは基本給等の12%など) |
| CTC小計(会社が負担する年間総額) | 15 LPA | 約255万円 | ①+② |
| ③ 人材紹介手数料(一度きり) | CTCの約20〜35%(例:約3 LPA) | 約51万円 | 初年度のみ/自社採用なら工数コスト |
| ④ 医療保険など法定外福利 | 企業により別途 | ─ | CTCに含めない場合が多い |
| 初年度の総支出イメージ(④を除く) | 約18 LPA | 約306万円 | ①+③の合計。これに④の法定外福利が上乗せ |
※PF等の法定負担はCTCに含めるのが一般的なため、上表では二重計上を避けています(②はCTC小計の内数)。
※医療保険等の法定外福利、社内の採用工数は別途かかります。
その後の給与推移(年9%昇給を想定)
| 時点 | CTC | 円換算(概算) |
|---|---|---|
| 採用時 | 15 LPA | 約255万円 |
| 5年後 | 約23 LPA | 約390万円 |
| 10年後 | 約36 LPA | 約610万円 |
このように、採用時の給与よりも、その後の昇給と(辞められた場合の)採り直しの方が、長期の総額を大きく左右します。「安く採れた」で終わらせず、5年・10年スパンで人件費を見積もることが、インド採用の予算管理では不可欠です。

最後に、費用を最適化するための実務的な視点を4つ挙げます。
A. 職種・経験・都市によって大きく異なり、一概には言えません。ただしCTC(会社負担総額)で見ると、同等スキルで日本より抑えられるケースが多い一方、需要過熱スキル(AI等)や希少な管理職層では、日本と遜色ない、あるいは上回る水準になることもあります。「安い」という前提だけで計画するのは危険です。
A. インドでは年次昇給が事実上の慣行で、市場平均は年9%前後(Aon調査)です。相場を大きく下回る昇給は、離職の直接的な引き金になります。昇給を抑えた結果、採り直しコストがかさむ——という本末転倒に陥りやすいため、市場相場を踏まえた設計をおすすめします。
A. はい。EOR(Employer of Record=雇用代行)を使えば、現地法人を設立せずにインド人材を雇用できます。費用は「EORの手数料(金額はベンダー・役職・地域で異なる)+給与+法定負担」が基本構造です。スモールスタートや、進出可否を見極める段階で有効です。
A. 一般に「50%ルール」と呼ばれる賃金定義の見直しにより、給与設計によってはPFや退職金の会社負担が増える方向です。従来の「賃金を低く抑える」設計は見直しが必要になります。ただし、詳細規則の整備や州ごとの適用は現在も進行中のため、実務では最新の施行・規則状況を確認したうえで計画することをおすすめします。
インド採用の費用は、「採用時にいくら払うか」だけでは測れません。
とりわけ昇給ペースと離職率は、日本の常識では測れず、長期の総額を大きく左右します。さらに2025年11月施行の新労働法(詳細規則・州対応は順次進行中)により、給与設計によっては法定コストが増える可能性があります。目先の給与の安さだけでなく、5年・10年スパンの総額で捉えることが、インド採用を成功させる第一歩です。
弊社INDIGITALでは、給与相場の把握・オファー設計から、採用代行、EOR、現地法人設立まで、インド採用の全フェーズを一気通貫でご支援しています。「自社の場合、実際いくらかかるのか」の試算も含め、ぜひお気軽にご相談ください。
📩 インド採用の費用・体制に関するご相談はこちら
※本記事の数字の出典について:昇給率・離職率(Aon/Zinnov)、法定負担=PF・ESI・退職金・賞与(EPFO・ESIC・首席労働委員)、新労働法の施行事実(インド政府DD News・EY India)、GCCと国内IT系の給与差15〜22%(Zinnov)は、いずれも公的機関または専門調査機関に基づく数値・事実です。なお新労働法は2025年11月21日に施行済みで、中央の最終規則(Central Rules)は2026年5月8日に通知されましたが、州ごとの一律運用は本記事作成時点でも順次進行中であり、退職金債務の増加率(3〜5割)などは一部専門家の試算です。円換算は1ルピー≒1.7円(2026年時点の概算)で統一しています。一方、職種別の給与相場(絶対額のLPAレンジ)・人材紹介手数料・EOR費用は、公的な単一出典が存在しないため、市場一般の相場観に基づく「目安」として記載しています。また、製造・バックオフィス等の職種別給与については、信頼できる専門機関データが乏しいため、具体額の断定を避け、相対的な傾向としてお示ししています。いずれも実際の金額は職種・スキル・企業・都市・時期により変動します。最新かつ自社条件に即した試算については、弊社までお問い合わせください。