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2021.07.22 / PARTNERS
(文責:田中啓介/株式会社INDIGITAL代表)
DX(デジタルトランスフォーメーション)という言葉を聞かない日がないほど、コロナ禍ではビジネスのオンライン化やデジタル化に注目が集まっていますが、デジタル技術を活用してビジネスをトランスフォーム(変革)するためには、自社にとっての顧客体験価値を再定義し、ビジネスモデルを再構築する必要があります。つまり、デジタル技術やデータの利活用が当たり前となる新しい世界を前提としたビジネスモデルへと「リデザイン」するために、事業環境の前提を「アップデート」し、ビジネスを俯瞰的に・抽象的にとらえるプロセスにおいてAI(人工知能)をどこに活用するのがより良い価値提供につながるかの仮説・検証を繰り返す、まさに人間とAIの最適な共存関係を新しいビジネスモデルに落とし込んでいく作業こそがDXであるとも言えます。
もちろん、ZoomやSlackを使ってオンライン上でコミュニケーションを行い、DropboxやGoogle Driveを使ってクラウド上でデータを保管・共有し、そして、取引先とクラウドサインやDocuSignを使って電子契約をする。HRテック領域のサービスを活用して、給与計算事務を効率化したり、従業員データを一元管理したり、従業員のエンゲージメント向上を図る。こういったSaaSと言われるクラウドサービスを積極的に活用していくこともビジネスのデジタル化のひとつと言えますが、一方で、SaaSの利用だけではAIを活用するという世界には到底及びません。事実、多くの日本企業はまだSaaSを利用してデジタル化を進めるに留まっているケースがほとんどではないでしょうか。独立行政法人情報処理推進機構が実施した「AI白書2020」の調査によると、日本企業のAI導入率はわずか4.2%となっています。
では、なぜ日本ではAIの導入が進まないのでしょうか。私たちはAIを導入するプロセスを、クラシック音楽における作曲家や編曲者、演奏者、指揮者からなるオーケストラに喩えて表現をしています。
1. 作曲家(データサイエンティスト)
2. 編曲者(AIビジネスデザイナー)
3. 演奏者(社内の営業部門や購買部門、生産部門、経理部門、人事部門など)
4. 指揮者(End to Endで伴走支援ができるAI人材)
つまり、新たな音楽(新しいビジネスモデル)を奏でるために、演奏者(社内の各部門)が楽器を調達・練習を行う(データを集め・編集する)。そして、作曲家(データサイエンティスト)は演奏者の楽器やその演奏レベル(データの量や質)に応じて楽譜(ビジネスに価値をもたらすデータ分析手法や分析結果)をしたためます。私たちが考えるAI導入における日本の課題は、どのような音楽を奏でるべきかを編曲できる「編曲者(AIビジネスデザイナー)」と、演奏者や作曲家と一緒になって音楽を奏でることができる「指揮者(伴走支援ができるAI人材)」が圧倒的に不足していることだと考えます。つまり、社内の各部門を巻き込みながら、事業ドメインの専門家やデータサイエンティストと一緒にAIビジネスをデザインし、そして、実際にそのサービスを開発・実装するまでのプロセスにおいて必要な人材、その全体プロセスをオーケストレーションできる人材が不足しているわけです。弊社INDIGITALでは、AIビジネスに精通したコンサルタントと連携をし、編曲者として御社のビジネスをリデザインし、指揮者として御社の新しいサービス開発を伴走支援いたします。
このような状況において、本日ぜひご紹介をしたいのがバンガロールに本社を置き、AIの活用によるビジネス変革を強力に推進するAIソリューションプロバイダーSahaj Software Solutions社です。この度、同社共同創業者でありCSOであるスンダル・マルヤンディ氏がインタビューに応じてくれましたので、そのインタビューを元に同社のご紹介したいと思います。
会社概要
会社名 :Sahaj Software Solutions Private Limited
事業概要 :AIソリューション&データプラットフォームの構築・提供
本社 :インド(バンガロール)
設立 :2014年
従業員数 :約 140名
(従業員内訳)
・開発部門(約80名)
・データサイエンス部門(約10名)
・プロダクトデザイン部門(約10名)
・その他(約40名)
デジタル技術の活用やデータの利活用が進む一方で、個別のサービスや組織が保有する情報がオンライン上で分散されており、うまく活用ができていないという課題も浮き彫りになっています。このような課題を解決するべく、Sahaj社は顧客の目的に応じたAIソリューションと、それを支えるデータ設計や分析、データプラットフォームの構築、さらに、可用性・拡張性の高い先端開発プラットフォームを提供しています。
Sahajは、信頼、尊敬、好奇心、そして、職人技という価値観に基づいて構築された職人気質の強いソフトウェアエンジニアリング企業であり、データドリブンな組織変革ソリューションを提供しています。Sahaj社の中核となる能力は、データエンジニアリング、プラットフォームエンジニアリング、データサイエンス(AIとML)に及び、あらゆる業界にソリューションを提供しています。彼らのホームページには「少数精鋭だからこそ結束力のあるチームが、ユーザー目線に立った最適なソリューションを提供し、クライアントが自立・自走できることを目指して伴走支援する。」と力強く描かれており、私たちが共感をする彼らの価値の源泉がここにあります。
スンダル氏によると、Sahaj社の一般的な契約モデルとして、当初6〜8週間で集中的に議論を重ねるスタイルを取っているとのこと。顧客の課題が何かを特定し、なぜその課題を解決したいのかの本質を問い、試作・試験運用を通じてソリューションの効果やその方向性を見極めます。なお、Sahaj社は自社で開発した以下4つのツールを活用しながら、顧客にとって最適なAIソリューションを提案・構築していきます。
ストリーミングデータ処理(continuous streaming data process)を可能とし、拡張可能なデータプラットフォームを構築するためのツール。例えば、IoT機器などにおいて継続的に収集されるデータ基盤として活用されます。
複数のコンピュータビジョンやライブラリを使った、画像データやビデオデータベースの物体検出(object detection)を目的とするAIトレーニング用フレームワーク。広告規制に対するモニタリングを行ったり、スポンサーにおよる広告効果を定量化したりする際にも活用されます。
モノリシックではなく、マイクロサービス(micro-services)用の開発カーネルライブラリ。Javaの開発環境で利用できるフレームワークSpringをベースに開発されています。
分散型アーキテクチャにより同期/非同期のサービスにおける通信を管理し、そのビジネスワークフローとパフォーマンスを可視化するライブラリ。
顧客とのタッチポイントにおけるデータ収集や、それらのデータを利活用することによりいかに顧客体験価値をリデザインできるか、また、その効果や価値の変化をいかに定量的にモニタリングできるプラットフォームを構築できるか、そのようなデータドリブンなDXの実現を目指す日系企業にとって、Sahaj社は強力な戦略的パートナーになり得ると考えています。
ここでひとつ、米系企業との協業事例をご紹介したいと思います。屋外看板やデジタルサイネージを専門とする米系OOHアドテック企業Talon社は、2019年にSahaj社との協業により、デジタル技術とデータドリブンなOOH広告の新たな可能性の追求とプラットフォーム開発を実現しました。具体的には、Talon社の「Atlas(旧Plato)」および「Ada」という2つのプラットフォーム開発において、Sahaj社がパートナーとして伴走支援しました。
「Atlas」とは、デジタル広告キャンペーンの最適化プラットフォームで、効果的なデジタルOOH広告キャンペーンを展開したいと考えているあらゆる広告主のための自動化を実現するソリューションです。つまり、価格や場所、ターゲット層、時間帯などの複数の要素を考慮して、キャンペーンの最適化を図ることができ、広告主や代理店、メディアオーナーなどが1つのプラットフォーム上で広告キャンペーンを戦略的に実行できるよう支援するものです。また、「Ada」とは消費者行動データのマネジメントプラットフォームで、何十億ものデバイスレベルのオーディエンスデータを収集して、データサイエンスモデルと組み合わせることで、人々の行動に基づいたインサイトを見出します。
Talon社のホームページによると、CTO(Chief Transformation Officer)であるJosko Grljevic氏は次のようにコメントしています。「Sahaj社とパートナーとして提携をしたのは、同社の深いエンジニアリングの経験と、テクノロジーを使って現実のビジネス課題を克服する革新的なアプローチが評価されたからです。シンプルかつ直感的なユーザー体験の実現に注力したことで、ユーザー・フレンドリーなシステムを構築し、ビジネスへの導入を促進することができました」
Talon社以外の事例では、例えば、米系教育関連テクノロジー企業であるVemo Education社の所得分配契約ISA(Income Share Agreements)のプラットフォーム開発も手掛けています。ISAモデルについては日本でもプログラミングスクールなどにおいても多く採用されてますが、卒業するまでの期間は受講料が発生しない代わりに、卒業後の収入から一定割合をスクールに支払うという仕組みで、学費ローンに変わる新しいモデルとして注目されています。Sahaj社はこのVemo Education社が持つISAモデルのプラットフォーム開発において、どのような条件で、誰にISAモデルを適用可能とするか、対象者の学習状況や卒業前後の収入や支払状況などのデータを収集・分析できるプラットフォーム構築に大きな貢献をしています。
AI導入がなかなか進まない日本において、Sahaj社のような最先端のAIソリューションを手がけるプロフェッショナル人材との連携は大きなキードライバーとなり得るのではないでしょうか。