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EOR vs 現地法人設立:コスト・リスク・スピードを徹底比較

2026.08.18 / COLUMN

EOR vs 現地法人設立:コスト・リスク・スピードを徹底比較

インドで人材を採用しよう、事業を始めよう——そう決めたとき、多くの日系企業のマネージャーが最初に突き当たるのが「EOR(雇用代行)で始めるか、現地法人を設立するか」という分かれ道です。

「まずは小さく試したいが、いずれ拠点を構えたい」「コストは抑えたいが、リスクや事業の広げやすさも気になる」——弊社INDIGITALにも、この二択で迷われるご相談が数多く寄せられます。どちらにも向き・不向きがあり、どちらか一方が常に正しいわけではありません。大切なのは、自社の状況を「いくつかの軸」で分解し、目的から逆算して選ぶことです。

この記事では、EORと現地法人を ①コスト ②リスク ③立ち上げスピード ④拡張性(事業の広げやすさ) の4つの軸で比較します。そのうえで、判断の方法・タイミング、そしてケース別の推奨形態までを、公的機関・専門機関の最新データに基づいて具体的に解説します。EORそのものの仕組みや基礎は「EORとは?インド進出企業のためのEOR完全ガイド」で詳しく扱っているため、本記事は「比較して、どう決めるか」に集中します。

💡 本記事のポイント

  1. EORと現地法人の選択は、「規模 × 期間 × 目的」でほぼ決まる
  2. 判断は 4軸(コスト・リスク・スピード・拡張性) で分解すると迷わない
  3. 両者は排他ではなく、「EORで始めて、頃合いを見て現地法人へ移行」という段階戦略も有力

※本記事の金額は原則ルピー表記+日本円換算(1ルピー=約1.7円、2026年8月時点の概算)を併記します。米ドル建ての金額は$1≈150円で換算します。ルピー→円とドル→円は、それぞれ独立した概算レートであり、両者のクロスレート(ルピーとドルの交換比率)を表すものではありません。

まず結論:30秒でわかる4軸比較

細かい解説の前に、全体像を先にお見せします。EORと現地法人(WOS=完全子会社)を4軸で並べると、おおまかな性格の違いは次のとおりです。

比較軸EOR(雇用代行)現地法人(WOS=完全子会社)
コスト(初期)◎ 法人設立が不要で、初期費用を大きく抑えられる△ 設立費用+固定の維持費がかかる
コスト(規模)△ 1名ごとに手数料が発生し、人数に比例して増える◎ 固定費(維持費)を人数で分散でき、増員するほど1名あたりは割安に
リスク○ 雇用主責任はEOR側が負担。ただしPE課税(現地に課税対象の拠点があるとみなされ課税されるリスク)には要注意△ 労務・税務・撤退まで自社が全責任
立ち上げスピード◎ 数週間で採用を開始できる△ 設立に数ヶ月(形態によってはRBI〈インド準備銀行〉の承認も必要)
拡張性(事業の広げやすさ)△ 人数・機能・資産保有に制約◎ 資産保有・IP(知的財産)の帰属・機能拡張・GCC(自社の海外業務拠点)化に対応

ひと言でまとめると——「少人数・短期・スピード重視ならEOR」「多人数・長期・資産や機能を自社で持つなら現地法人」が基本線です。

ただし実際の判断は、この単純な二分では割り切れません。「何名から現地法人が割安になるのか(=損益分岐点)」「PE課税とは具体的に何か」「撤退はどれだけ大変か」——ここを踏み込んで理解して初めて、自社にとっての最適解が見えてきます。次章から、4軸を1つずつ掘り下げていきます。

EORと現地法人の基本的な違い

4軸に入る前に、両者の性格を一言で押さえておきます。

EOR(Employer of Record=雇用代行)は、現地のEOR事業者が「法律上の雇用主」となって、貴社の代わりにインド人材を雇用する仕組みです。給与支払い・社会保険・労働法対応といった雇用主としての事務を事業者が担うため、自社で現地法人を設立しなくても、インドで人を雇えるのが最大の特徴です。実務は指揮命令のみ自社が行い、雇用契約や法定手続きは事業者側が処理します。

一方、現地法人(WOS=Wholly Owned Subsidiary、完全子会社)は、貴社がインドに独立した会社を設立し、自社が雇用主・事業主体そのものになる形態です。採用も契約締結も資産保有も自社名義で行え、事業を本格的に根付かせられますが、設立・運営・撤退のすべてに自社の責任とコストが伴います。

つまり両者の本質的な違いは、「雇用主・事業主体を”借りる”のがEOR、”自前で持つ”のが現地法人」という点にあります。EORの仕組みや導入ステップの詳細は「EORとは?インド進出企業のためのEOR完全ガイド」をご覧ください。以下では、この2つを4軸で比較します。

軸①:コスト

コストは「初期」「ランニング(維持)」「撤退」の3段階で見ると、両者の違いがはっきりします。

段階EOR(雇用代行)現地法人(WOS)
初期導入初期費用(初回)+デポジット。法人設立より小さく抑えられる設立費用+事業開始まで約4〜6ヶ月分の先行投資
ランニング給与+法定負担+月額利用料(1名ごと)給与+法定負担+会社の固定維持費(人数に関係なく発生)
撤退契約解約で完了。現地法人に比べて負担は少ない清算に1〜3年規模の時間・コスト(後述)

EORのコスト構造:EORでかかる費用は次の4つです。

  • ①従業員の給与
  • ②法定の会社負担(PF・ESIなど。※詳細は後述)
  • ③EOR導入初期費用(初回のみ)
  • ④EOR月額利用料(1名あたり)

月額利用料は事業者や支援範囲、地域などによって幅がありますが、市場の相場感としては、1名あたりおおむね$100〜700程度で、これに導入初期費用とデポジットが加わります。給与計算・源泉所得税の納付/申告・経費精算といった実務代行が含まれるのが一般的で、日本人材を現地採用する場合はビザ維持・FRRO(外国人登録)対応など駐在に近い支援を伴うため、料金は高めになります。いずれにせよEORは、初期投資が小さく、人数に応じて費用が積み上がる「変動費型」である点が本質です。

現地法人のコスト構造:給与・法定負担に加え、人数に関係なくかかる固定費が発生します。主な内訳は次のとおりです。

  • ① 設立費用(初回)
  • ② 年次の法定コンプライアンス費用(法定監査・各種届出・法人税/GST申告・記帳 など)
  • ③ 登録事務所の維持費
  • ④ 居住取締役の確保
  • ⑤ 会計・法務顧問/管理工数

②の届出・監査の直接費用だけなら年間₹25,000〜100,000+が目安ですが、③〜⑤を含めた固定費の総額はこれよりかなり大きくなるのが実情です。いずれも人数によらずほぼ一定なので、現地法人は「固定費型」といえます。

なお、PF(Provident Fund=積立年金)やESI(被用者州保険)などの法定負担はEORでも現地法人でも同じようにかかります。したがって両者のコスト差の本質は、「EORの月額利用料(変動費)」対「現地法人の設立+固定維持費」にあります。人数が少ないうちはEORが割安、人数が増えるほど固定費を分散できる現地法人が有利——この逆転がどこで起きるかは、後半の「損益分岐点」で市場相場をもとに具体的に試算します。給与相場や法定負担の内訳は、「完全ガイド インド採用にかかる費用の全体像|採用コスト・給与相場・昇給ペースまで」で詳しく解説しています。

軸②:リスク

リスクは「大きさ」よりも「誰が負うか(所在)」が両者で決定的に異なります。

EOR:雇用主リスクは事業者が肩代わり、ただしPE課税は残る EORでは、法律上の雇用主はEOR事業者です。したがって、労働法違反・給与計算・社会保険・解雇手続きといった雇用に伴うコンプライアンス責任の多くを事業者が負担し、自社が直接負うリスクは小さくなります。これがEOR最大の安心材料です。

一方で、消えないのがPE課税リスクです。PE(Permanent Establishment=恒久的施設)とは、「現地に課税対象とみなされる事業拠点がある」と税務当局に判断される状態を指します。2025年7月、インド最高裁はHyatt International事件で、外国企業が施設を所有・賃借していなくても、従業員を通じて現地事業を継続的・実質的に支配していれば「Fixed Place PE(固定的施設PE)」が成立しうると判断したと報じられています。実務上重要とされるのは、グループ全体が赤字であっても、PEに帰属する利益にはインドで課税が生じ得るという含意です。EORで雇った人材であっても、自社がインドで事業を実質的に動かしていればPEと認定される恐れがあり、ここは税務専門家への確認が欠かせません。

現地法人:すべての責任を自社が負う 現地法人は自社が雇用主・事業主体なので、労働法・税務・会計のコンプライアンスを自社の責任で遵守します。加えて、現地法人が親会社などグループ会社と取引する場合は移転価格税制(グループ間取引を第三者間と同等の適正価格で行うルール)への対応が必要です。この点、インドでは、CBDT(中央直接税委員会)が移転価格の「セーフハーバー(一定の利益率で申告すれば当局が価格を否認しない制度)」の対象範囲を拡大する規則を通知したと報じられています。IT関連サービスについては利益率を営業費用の一定率に設定し、対象となる売上規模の上限も引き上げられた、とされます。要件を満たせば税務調査で価格を争われるリスクを大きく抑えられます。

つまり現地法人は、自由度が高い反面、労働法・税務・会計のルールを自社の責任で正確に守る必要があり、特に親会社などグループ会社との取引価格(移転価格)には専門的な対応が求められる——ということです。EOR利用時はこれらの多くを事業者が担うのに対し、現地法人では自社が主体的に対応します。

撤退リスク:現地法人は「たたむ」のも大変 見落とされがちですが、現地法人は撤退(清算)にも大きな負担がかかります。撤退方法には「自主清算」「清算(倒産)」「登記抹消(Striking-off)」「休眠化」の4つがありますが、いずれも準備から完了まで長期に及びます。たとえば登記抹消は申請の前提として2会計年度の事業停止が必要で、自主清算では準備・手続きをあわせて1〜3年規模に達することもあります。清算人(Liquidator=清算手続きを遂行する専門家)へ権限を移譲するため自社のコントロールが効きにくくなる点にも注意が必要です。一方EORは契約解約で完了するため、この点の負担は大きく異なります。

まとめると、EORは「雇用リスクを外に出せるが、PEには注意」、現地法人は「自由度が高い分、責任もコストも撤退まで全部自社」という構図です。

軸③:立ち上げスピード

「いつから人を動かせるか」は、事業機会を逃さないうえで重要な軸です。ここはEORが明確に優位です。

EOR:数週間で採用開始 EORは既存の事業者インフラを使うため、契約後おおむね2〜4週間程度で就業を開始できます。法人設立を待たずに、候補者への正式オファーから入社まで進められるのが強みです。

現地法人:事業開始まで約4〜6ヶ月 現地法人(WOS)の登記そのものは、SPICe+(会社設立の統合申請システム)を使えば約15〜25営業日が一つの目安とされます。ただし実務では、これに先立つ書類準備、DSC(電子署名証明書)・DIN(取締役識別番号)の取得、そして設立後の銀行口座の開設や各種登録(GST等)に時間がかかり、事業を実際に開始できるまでには約4〜6ヶ月を見ておくのが現実的です。なお、駐在員事務所や支店の形態を選ぶ場合は、AD銀行(外国為替取扱銀行)経由でのRBI(インド準備銀行=中央銀行)の事前承認が必要となり(現地法人は原則不要)、約45〜60営業日とさらに時間を要します(所要期間は案件により変動します)。

特に時間かかるのは、居住取締役(年182日以上インドに滞在する取締役が最低1名必須)の確保、銀行口座の開設、税務登録です。とにかく早く人を確保したい局面ではEOR、腰を据えて拠点を作るなら現地法人、という住み分けになります。

軸④:拡張性(事業の広げやすさ)

「その先、事業をどこまで広げられるか」を見る軸です。ここは現地法人が優位です。

人数の拡張:EORは少人数の雇用に適していますが、人数が増えると手数料が積み上がり、管理も煩雑になります。現地法人には人数の上限がなく、大規模化に耐えます。

機能の拡張:EORで自社ができるのは基本的に「雇用」だけです。これに対し現地法人は、契約の締結、売上の請求、資産の保有、研究開発や製造といった事業機能を自社名義でフルに持てます。「人を雇う」段階から「事業を営む」段階へ進むには、現地法人が必要になります。

資産・IP(知的財産)の保有:設備・不動産などの資産保有や、現地で生み出したIP(特許・ソフトウェア等の知的財産)を帰属させることは、EORではできません。IPを自社グループの資産として押さえたい場合、現地法人が前提になります。

GCC(自社の海外業務拠点)への発展:エンジニアリングやバックオフィスをインドに集約する本格的なGCC(Global Capability Center=自社が保有するグローバル業務拠点)は、現地法人が前提になります。ただし、いきなり法人を作らずとも、まずEORで小さくチームを立ち上げ(=マイクロGCC)、軌道に乗った段階で現地法人へ移行するという段階的な作り方もあります

▼GCCについてはこちらの記事「インドGCCとは何なのか?欧米企業の潮流と日本企業の最新事例」で詳しく解説しています。

▼マイクロGCCについては、こちらの記事「マイクロGCCとは?4ステップで始めるインドGCC戦略」をご覧ください。

まとめると、EORは「まず人を雇う」ための身軽な手段、現地法人は「事業に根を張って広げる」ための器です。将来的に人員・機能・資産を伸ばしていく構想があるなら、どこかの時点で現地法人が必要になります。

損益分岐点:何名・何年で現地法人が有利か

軸①で見たとおり、EORは「変動費型(人数に比例)」、現地法人は「固定費型(人数に関係なく固定費が発生)」です。ということは、ある人数・ある期間を超えると、EORの手数料の累計が現地法人の固定費を上回り、有利不利が逆転します。ここでは市場相場をもとに、その分岐を考えます。

前提として、給与と法定負担(PF・ESI等)はEORでも現地法人でも同じようにかかるため比較から外し、「EORの手数料」対「現地法人の設立+維持の固定費」だけを見ます。数字は市場相場と一般的な目安に基づく試算で、実額は事業者や条件により変わります。

人数の軸:EORの月額利用料は、市場の中位で1名あたり月額$500前後です。年額にすると約$6,000(約90万円/$1≈150円の概算)で、雇う人数に比例して積み上がります。EORの手数料(月額利用料)だけを人数別に1年分で取り出すと、次のようなイメージです(給与・法定負担は別途で、EOR・現地法人のどちらでも同じようにかかります)。

雇用人数EORの年間手数料(人数別・1年分の目安)
1名約90万円
3名約270万円
5名約450万円
10名約900万円

一方、現地法人の設立費用や年間の維持・管理コスト(監査・会計・コンプライアンス・登録事務所・居住取締役など)は、雇う人数が1名でも10名でもおおむね一定です。つまり、この「ほぼ一定の固定費」を、上表のEOR手数料の累計が上回る人数が、損益分岐点になります。人数が増えるほど現地法人は1名あたりの固定費負担が下がるため、どこかでEORより割安になっていきます。市場でよく言われる分岐の目安は「おおむね5〜10名」です。これはEORの年間手数料(1年分)に換算すると年約450〜900万円に相当し、現地法人の設立+年間固定費(監査・会計・登録事務所・居住取締役などを含む)がおおよそこの水準にある、という関係を表しています。つまり、同じ「年額」どうしで「EORの年間手数料」と「現地法人の年間固定費」を並べ、前者が後者を上回る人数が損益分岐点です(実際の分岐点は、給与水準・固定費の実額・支援範囲によって前後します)。

期間の軸:ここで比べるのは、「EOR手数料の累計」と「現地法人の設立+維持の固定費の累計」です(黒字化=事業採算の話は次章で扱います)。

現地法人は設立に約4〜6ヶ月を要し、その間の固定費(維持費)は人がフル稼働する前から発生します。さらに撤退(清算)にも1〜3年規模の負担がかかります。したがって、1〜2年で撤収する可能性がある短期の取り組みでは、設立費・固定費・撤退コストがかさむぶん、EORの方が費用面で有利になりやすいのです。逆に、腰を据えて5年10年と続ける前提なら、固定費を長い期間で分散でき、年あたりの負担が下がる現地法人が生きてきます。

まとめると、「少人数(〜数名)×短期(〜1〜2年)ならEOR」「5〜10名以上×長期(数年〜)なら現地法人」が損益分岐のおおよその目安です。ただしこれは費用だけの話。次章では、費用以外(機能・リスク・目的)も含めた判断の方法を示します。なお、貴社の人数・期間・給与水準に即した具体的な損益分岐は、弊社で個別に試算いたしますのでお気軽にお問い合わせください。

判断の方法とタイミング

費用・リスク・スピード・拡張性を踏まえると、EORと現地法人の選択は、次の4つの問いで整理できます。どれか1つで決まるものではなく、4つを重ね合わせて判断します。

  • ① 規模(何名を雇うか):数名程度に留まるならEORが割安ですが、5〜10名を超える、あるいは今後超えていく見込みなら、固定費を分散できる現地法人が視野に入ります。前章の損益分岐点の人数を、1つの目安にしてください。
  • ② 期間(どのくらい続けるか):1〜2年の短期・お試しなら、設立・撤退のコストがかからないEOR。5年10年と腰を据えるなら、固定費を長く分散できる現地法人です。
  • ③ 事業の確度(検証段階か、本格展開か):「インド市場を試す」「まず人材の質を見る」といった検証段階ならEOR。「腰を据えて事業を営む」と社内で決まっているなら現地法人です。
  • ④ 機能・資産(雇用だけで足りるか):やりたいことが「人を雇う」だけならEORで十分。契約締結・売上請求・資産保有・IP(知的財産)の帰属まで必要なら、現地法人でなければ実現できません。

これらが「小さく・短く・お試し・雇用だけ」に寄ればEOR、「大きく・長く・本格・事業機能まで」に寄れば現地法人、という判断になります。

タイミング(段階戦略):実務では、最初から二択で決めきる必要はありません。インド進出は「①検討(6〜12ヶ月)→②実証実験・PoC(1〜2年/EORでトライアル)→③事業化(1〜2年/現地法人を設立)→④本格投資」という段階を踏むのが定石です。まずEORで小さく始めて手応えとリスクを見極め、事業の確度が高まった段階で現地法人へ移行するのが、リスクとコストを抑えた王道といえます。現地法人は、設立から3〜5年での黒字化を目標に据えるのが一般的です。

移行を検討すべきサインは、たとえば次のときです。

  • 雇用が5〜10名に近づき、EOR手数料の累計が現地法人の固定費に迫ってきた
  • 雇用にとどまらず、契約締結・請求・資産保有・IP帰属といった事業機能が必要になった
  • インド事業を継続・拡大する意思が社内で固まった

これらのサインが見えてきたら、現地法人化を検討するタイミングです。焦って早く作る必要も、EORに留まり続ける必要もありません。事業の成長に合わせて「器」を掛け替えるという発想が、失敗を防ぎます。

ケース別の推奨形態

最後に、代表的なケースごとに、どちらが向くかを整理します(あくまで一般的な傾向で、最終判断は個別事情によります)。

  • インド市場の検証・PoC段階(1〜2名/〜2年)→ EOR
    現地の人材の質や市場性を見極めたい段階です。EORなら数週間で採用でき、うまくいかなくても契約解約で撤収できるため、検証フェーズのリスクとコストを最小化できます。ここで無理に法人を作ると、撤退の負担が重くのしかかります。
  • 少人数を長期に雇用(数名・恒久的)→ ケースバイケース
    人数は少ないが長く続ける、というケースです。判断の決め手は損益分岐で、固定費を賄えるだけの人数・期間があるかを試算します。5〜10名に届かないうちは、EORを継続するほうが割安なことも多くあります。
  • 営業・サービス拠点を持ちたい(契約・請求が必要)→ 現地法人
    自社名義で契約を結び、売上を請求する必要があるケースです。EORでできるのは雇用までで、事業取引はできません。支店形態にも「製造・加工は不可」などの制約があるため、自由に事業を営むなら現地法人が基本になります。
  • 製造・エンジニアリング拠点 → 現地法人
    設備・不動産などの資産保有や、製造・加工を行うケースです。これらはEORでも駐在員事務所・支店でも担えず、現地法人が必須になります。腰を据えた投資が前提のため、長期での回収を見込んで設立します。
  • ・GCC(バックオフィス・R&Dの集約)→ 現地法人/段階的にはEOR
    エンジニアリングや経理などを集約する拠点です。本格的なGCCは現地法人が前提ですが、いきなり作らず、まずEORで数名のチームを立ち上げ(マイクロGCC)、軌道に乗ってから法人化する段階的な進め方が有効です。
  • ・短期・期間限定のプロジェクト → EOR
    数ヶ月〜1〜2年で終わる案件です。現地法人は撤退(清算)に1〜3年規模の負担がかかるため、期間限定の取り組みには不向きです。EORなら必要な期間だけ雇い、終われば解約できます。

共通して言えるのは、「今」だけでなく「3〜5年後の姿」から逆算して選ぶことです。目的が定まれば、4軸のどれを重視すべきかが決まり、おのずと最適な形態が見えてきます。迷ったら、まずEORで小さく始めて選択肢を残す——これが失敗しにくい進め方です。

よくある質問(FAQ)

Q. EORで始めて、あとから現地法人へ移行できますか?

A. できます。むしろ「EORで小さく始め、事業の確度が高まってから現地法人へ移行する」段階的な進め方は、リスクとコストを抑える王道です。移行時は、EORで雇用している人材を現地法人へ転籍させる形が一般的です。タイミングの目安は本文「判断の方法とタイミング」をご覧ください。

Q. EORを使えばPE課税リスクはなくなりますか?

A. いいえ。EORは雇用主責任を事業者に移せますが、PE(恒久的施設)課税リスクは別問題です。2025年のインド最高裁判決(Hyatt事件)では、施設を所有していなくても、従業員を通じて現地事業を実質的に支配していればPEが認定されうるとされました。EOR利用時も、自社の関与度合いによってはリスクが残るため、税務専門家への確認をおすすめします。弊社でもPEリスク課税評価をEOR初期導入時に実施することが可能です。

Q. 現地法人は何名から設立を検討すべきですか?

A. 費用面では「おおむね5〜10名」が一つの目安です。EORの月額手数料の累計が、現地法人の設立+固定維持費を上回るのがこの辺りだからです。ただし人数だけでなく、「期間」「事業の確度」「必要な機能(契約・資産・IP等)」も合わせて判断します。

Q. 現地法人の撤退(清算)はどのくらい大変ですか?

A. 撤退方法により、準備から完了まで1〜3年規模の時間がかかることがあります。登記抹消は前提として2会計年度の事業停止が必要になるなど、「たたむ」にも相応の手続きとコストが伴います。だからこそ、短期・不確実な段階ではEORが向いています。

Q. EORと現地法人で、従業員が受け取る給与や待遇は変わりますか?

A. 基本的な給与や法定の社会保険(PF・ESI等)は、どちらでも同じようにかかります。両者の違いは「雇用主が誰か」「会社としての機能をどこまで持つか」であり、コスト差の本質はEOR手数料か法人の固定費か、という点にあります。

まとめ

EORと現地法人の選択に、唯一の正解はありません。大切なのは、4つの軸で自社の状況を分解することです。

  • コスト:EORは変動費型(少人数で割安)、現地法人は固定費型(多人数で割安)。分岐の目安は5〜10名
  • リスク:EORは雇用主責任を事業者に移せる(ただしPE課税は要注意)、現地法人は税務・労務・撤退まで自社責任
  • スピード:EORは数週間、現地法人は事業開始まで約4〜6ヶ月
  • 拡張性:EORは雇用中心、現地法人は契約・資産・IP・GCC化まで対応

そして忘れてはならないのが、両者は排他ではないということです。「EORで小さく始め、手応えを見て現地法人へ移行する」という段階戦略が、リスクとコストを抑えた王道です。「今」だけでなく「3〜5年後の姿」から逆算して、目的に合った形態を選んでください。

📩 EOR・現地法人設立に関するご相談はこちら

弊社INDIGITALでは、EORによるスモールスタートから、現地法人の設立、採用・労務・税務のコンプライアンス対応まで、インド進出の全フェーズを一気通貫でご支援しています。ぜひお気軽にご相談ください。

参考資料

※本記事の数値について:会社設立手続き(ジェトロ)、PE課税判例(EY・最高裁)、移転価格(CBDT・PIB)、PF・ESI(EPFO・ESIC)は公的機関・専門機関に基づく事実です。一方、EOR費用・法人の維持費・損益分岐点(5〜10名)は市場一般の相場観に基づく「目安」であり、公的な単一出典はありません。円換算は1ルピー=約1.7円、$1≈150円(いずれも2026年8月時点の概算)を用いています。ルピー→円とドル→円は各々独立した概算で、両者のクロスレートを示すものではありません。実額は事業者・条件・為替により変動します

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