TOPICS

トピックス

インドのIT人材をいかに活用すべきか?

2022.11.19 / COLUMN

(文責:田中啓介/株式会社INDIGITAL)

インドのIT人材をいかに活用すべきか?

経済産業省の「IT人材需給に関する調査」によると、日本国内のIT市場は、2030年には人材が最大で約79万人、保守的に見ても約16万人(※1)不足すると試算されています。新型コロナウイルス感染拡大の影響で、デジタル経済を前提とする、プロダクトやサービスのデジタル化・AIの活用を中心としたビジネスモデルの再定義・変革が求められ、今後、いかに海外の多様な人材、特に海外のIT人材を受け入れていくことができるかが重要になってきます。特にインドは工学系の学生が毎年約150万人卒業(※2)し、優秀なIT人材を輩出し続けています。欧米の大手IT企業や、積極的に資金調達を実施するスタートアップを中心にインドIT人材の獲得競争が繰り広げられていますが、2014年から開発拠点を設立していた楽天以外にも、昨年あたりからラクスルやメルカリ、PayPay、マネーフォワードなどの日系メガベンチャーや日系スタートアップもインドに開発拠点を設立する動きが活発化しています。

平成31年 4 月 経済産業省情報術利用促進課「IT人材需給に関する調査」

GoogleやMicrosoft、Twitter、IBMのように米国テック企業の多くでインド出身のCEOが活躍するほか、最近ではテック企業以外でもシャネルの新CEOにインド出身のリーナー・ナーイル氏が就任、スタバの新CEOにインド出身のラクスマン・ナラシムハン氏が就任、イギリスの新首相にインド系のリシ・スーナク氏が選任されたりと、世界中でインド人の活躍が目立ちます。また、アメリカでの留学および米国企業でのキャリアを経てインドに凱旋帰国した優秀な人材がインド国内でスタートアップを立ち上げる動きも多く、インド国内のユニコーン企業数が2022年に100社を超えるなど、大きな盛り上がりを見せています。

とは言っても、日本における海外IT人材の活用においては、親日かつ日本語教育にも力を入れているベトナムや、英語が公用語のひとつであるフィリピンなどの東南アジアをイメージされる日本企業がまだまだ多く、インドを積極的に取り込もうとする動きはごく僅かです。事実、日本からの物理的な距離も遠く、まだ行ったことがない国(=よく分からない国)として敬遠されがちです。また、日本のメディアで(一部ネガティブな)偏向報道や限定的な情報発信によって、インドという国のリアリティが正確に伝わっておらず、むしろ心理的な距離が広まってしまっている印象さえ受けます。

弊社の経験上、その他の東南アジア地域のエンジニアと比較したときに、インド人ソフトウェアエンジニアは「とても素直でオープンマインド」だと感じます。一般的に、インドは日本以上にトップダウン型だと言われ、また、インド特有の忖度をする文化も色濃く残ります。一方で、これまで10年近くインドで複数の会社を経営してきて感じるインド特有の魅力は、トップ自らがチームのメンバーの目線に合わせてコミュニケーションをとることで、オープンでフラットな関係性を築くことができ、かつ、昼夜を問わず会社や事業にコミットしてくれるケースや、力強いパートナーになってくれる可能性さえ感じられる点です。

これは、弊社がインド人ソフトウェアエンジニアと一緒に開発している中でも随所に感じているところです。トップダウン型で、忖度もする。仕事に対して真摯に向き合い、言うべきこともストレートに言う。私が知るインド人の方々とプライベートでお付き合いをしていても、素直でオープンな人柄に触れて、大切なことに気付かされることも多々あります。多宗教・多言語・多民族・所得格差もある多様な国だからこそ、当たり前のこととして相手を尊重し、相手の立場をおもんぱかることができる方がとても多い一方で、自身のポリシーにしたがって、思ったことを悪気なくストレートに伝えてくれる一面も持ち合わせています。このバランス感覚がインド人の方々と一緒に仕事をしていて心地が良いと感じる部分であり(もちろん多種多様なストレスもありますが、笑)、何より開発のリーダーシップを積極的に任せていくことができると、そう可能性を感じさせてくれるところがインドの最大の魅力だと感じます。

なお、インドに限らず海外IT人材との協働において極めて重要だと感じるのが、5W1Hです。何を今さら、と思われる方も多いかもしれませんが、実際にインド人ソフトウェアエンジニアと開発を進めている中でも「実施すること(How)とその実施背景(Why)をセットで明確にして話さないと伝わらない」と感じることは多いです。誰がどこで何をすべきなのか明確にし、どのようにすべきかを的確に伝え、なぜそれをすべきなのかを説明する。そして、もしそれが期限までに終わらなければどのような問題が起こり得るのかまでをちゃんと説明をして、それらを仕事の背景にあるストーリーとして伝える。この当たりまえのことを当たりまえにすることの重要性は、異なる価値観・商習慣・異文化を持つまさにインドのような国の人たち一緒に働いてみないと、多様な組織で本当に求められる5W1Hになっていない可能性があります。私たちもまだ試行錯誤を続けている状況ですが、これまでに以上に意識をして仕事に取り組んでいるつもりです。

海外に開発拠点を持つ開発会社において、開発のリーダーシップやオーナーシップはその創業背景に大きな影響を受けます。日本人が日本で立ち上げた開発会社は、日本側で経営を主導し、その傘下に海外の開発拠点があるケースが一般的でしょう。一方で、ベトナム人がベトナムで立ち上げた開発会社が日本に進出しているような場合には、ベトナム側で経営も開発も主導をしますが、逆に日本市場における顧客との期待値調整や品質管理がうまく機能しないケースも散見されます。

日本人がインドで開発会社を立ち上げた弊社INDIGITALとしては、インドと日本が開発プロジェクトを協働していくに際し、優秀かつ英語が堪能なインド人材が開発プロジェクトにおいてリーダーシップ・オーナーシップを発揮し、日本人が細部の調整や仕上げ、品質管理、顧客との期待値調整などを担っていくような世界観を目指しています。そこに、日本とインドがともに成長できるシナリオが見えているような気がしていますが、この仮説がはたしてどうなるか、、、私たちの挑戦はまだまだ続きます。

※1 平成31年 4 月 経済産業省情報術利用促進課「IT人材需給に関する調査」

https://www.meti.go.jp/policy/it_policy/jinzai/gaiyou.pdf

※2 2020年10月20日 日本貿易機構(ジェトロ)「世界で活躍するインド高度人材を、日本企業競争力強化の即戦力に」

https://www.jetro.go.jp/biz/areareports/special/2019/0303/a81be0374a5b4362.html

EN