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インドのオフショア開発とGCC: 成功の鍵と未来展望

2024.06.15 / COLUMN

インドのオフショア開発とGCC: 成功の鍵と未来展望

インドはオフショア開発の主要拠点として世界中で注目を集めています。GCC(グローバルケイパビリティセンター)もまた、インドの技術力とコストメリットを最大限に活用できる手段として、一部の日本企業を含む多くの外資系企業に支持されています。本記事では、インドのオフショア開発とGCCの実情、事例、そして成功の鍵について詳しく解説します。

インドのオフショア開発の現状

1. インドがオフショア開発やGCC拠点として選ばれる理由

インドは、豊富なIT人材、高い技術力、(欧米諸国と比較したときの)コストメリット、そして、文化的適合性など、オフショア開発やGCC拠点として多くの魅力的な要素を備えています。特に近年は、世界中の企業がインドをGCC拠点として活用し、ビジネスの効率化やコスト削減を背景にGCCが担う役割も幅広くなってきています。

2. オフショア開発がもたらすビジネスメリット

インドへのオフショア開発は、企業にとって様々なメリットをもたらします。まず、開発コストの削減が挙げられます。インドのIT人材は、高いスキルを持ちながらも、先進国に比べて人件費が低いため、開発コストを大幅に抑えることができます。アメリカやヨーロッパのエンジニアは一般的に時給50ドルから100ドル程度と言われますが、インド国内の多くのエンジニアはいまだに時給15ドルから30ドルで雇用することができます。日本から見ると大きなコストメリットを見出せないかもしれませんが、例えば、インドを世界へ攻めるためのハブ拠点と位置づけたときに、世界中にフットプリントを持つインド人と組むことは、地政学的な見地から見ても日本企業がインドのIT人材を積極的に起用することの意義は大きく、人事戦略という観点でインドを見ると、開発組織を構築する上でまた違ったストーリーが見えてくるのではないでしょうか。

3. インドの主なオフショア開発都市

インドには、バンガロール、ムンバイ、プネ、ハイデラバードなど、多くのオフショア開発拠点が存在します。これらの都市は、テクノロジー産業が活発で、多くのIT企業や工科系教育機関が集積しています。また、即戦力となる優秀かつ豊富なIT人材のみならず、大学もキャンパス内にCOE(Centre Of Excellence)を設置することによる実務家との交流や企業へのインターン生の送り出し等の積極的な産学連携を行っており、共同研究プロジェクトや開発プロジェクトを円滑に進めるための環境が整っています。

グローバルケイパビリティセンター(GCC)とは

1. GCCの概要とその重要性

グローバルケイパビリティセンター(GCC)とは、多国籍企業が出資・運営する拠点で、一貫したビジネスプロセスを提供するもので、ITサービスやエンジニアリング、研究開発機能を兼ね備えたチームやその組織のことを指し、国境を超えたグローバルな事業展開をサポートするための戦略拠点です。GCCは、企業のグローバル戦略を支援し、海外市場への進出を加速させるための重要な役割を担っています。GCCは、通常、特定の地域に集中して設立され、その地域の専門知識や人材を活用することで、企業のビジネスを効率的に推進します。

2. インドでのGCC成功事例と最新動向

インドでは、多くの企業がGCCを設立し、成功を収めています。例えば、アメリカの金融機関JPモルガンチェースやゴールドマン・サックスなどは、インドのバンガロールに数万人規模の人材を抱えるGCCを設立しており、顧客サービスやバックオフィス業務の効率化を推進しています。また、最近では半導体分野でのGCC設置をする動きが顕著で、日系企業のソシオネクスト社もバンガロールに、エッジコーティング社もハイデラバードに半導体GCC拠点を設立しています。

3. GCC設立のためのステップ

GCCを設立するには、以下のステップが必要となります。まず、GCCの目的や目標を明確に定義する必要があります。次に、GCCの候補地を選定し、必要なインフラを整備します。なお、人材の採用や育成を行い、GCCの運営体制を構築する初期フェーズにおいては現地法人を設立せずに、一定期間のみEORを活用する企業も増えています。GCCの運用体制が整備できたタイミングで現地法人を設立し、メンバー全員をEORから自社拠点に転籍をさせた時点から正式にGCCの運用を開始し、継続的な改善活動を行っていくという流れです。

EOR(エンプロイヤー・オブ・レコード)とは

1. EORの基本概念とその利用方法

「EOR」とは、Employer Of Record(記録上の雇用主)の略称で、インド国内の給与計算や労務管理を中心としたバックオフィス業務を専門機能として持つ事業者(EOR)が、日本企業の代わりに法的な雇用主となり、インド国内拠点の設立・運営を代行します。日本企業が採用したインド人材を、インド現地法人を設立することなく低コスト・低リスクで管理・運用でき、リモートかつスムーズにオフショア開発拠点やGCC拠点の新設をサポートする仕組みです。また、EORは、海外での事業展開を迅速に進めたい企業や、海外の専門人材を確保したい企業においても積極的に利用されています。

2. EORを活用するメリット

EORを活用することで、企業は様々なメリットを得ることができます。現地法人を設立するよりも、コストを大幅に抑えることができると同時に迅速に拠点を立ち上げることが可能です。また、現地法人設立による各種コンプライアンス対応を回避することができるため、法的リスクも大幅に軽減できるところも大きなメリットです。

3. 日本企業のEOR活用事例

IT人材の確保に苦戦をする日本企業も、EORを活用してインドへの事業展開の足掛かりを掴もうとする企業も増えています。例えば、IT/Web系のエンジニアに特化したエンジニアと企業のスカウト型リクルーティングサービスと、エンジニア組織支援SaaS「Findy Team+」を提供するファインディ株式会社は、インド拠点を「世界に飛び出すビジネスハブ」と位置付けて、執行役員CFO河島氏自らが同社初の日本人駐在員としてインドに常駐することでインド進出を実現しています(同社のインタビュー記事についてこちら)。また、ブロックチェーン技術のプロフェッショナルとして企業のWeb3事業の実現をサポートするスタートアップ企業、株式会社Gincoは、CTO森下氏とインド子会社取締役月井氏が同社初の日本人駐在員としてインドに常駐し、将来的なグローバル向けプロダクトの販売を見据えた多国籍チームの土台づくりをするべくインド進出を決定しました(同社のインタビュー記事についてはこちら)。

インドにおけるオフショア開発の未来展望

1. 技術力の向上と持続可能な発展

インドのIT産業は、近年、技術力の向上と人材育成に力を入れており、今後も更なる発展が期待されています。特に、人工知能(AI)やビッグデータ分析などの分野では、世界をリードする技術力を有しています。インド政府も、IT産業の育成を積極的に支援しており、今後もインドのIT産業は、世界で重要な役割を果たしていくと考えられます。

2. グローバルビジネスの拠点としての成長

インド人は世界中に広がる印僑やNRI(在外インド人)のネットワークを持ち、これが世界市場へのリーダーシップを強化する要因にもなっています。今後、インドは、世界を攻めるグローバルビジネスハブ拠点としてますます成長していくことが期待されます。

3. まとめと今後の戦略

インドは、オフショア開発拠点やGCC拠点として、豊富な人材、高い技術力、コストメリット、そして文化的適合性など、多くの魅力的な要素を兼ね備えています。欧米企業で働くトップtier人材だけでなく、層の厚いテック人材から数多くのスタートアップも生まれ、今後、インドは、ますます無視できない国のひとつになっていくでしょう。日本企業は、人事戦略という観点からインドのIT人材を活用するという新しい視点を持つことで、日本が中長期的に抱える労働力不足やIT人材不足を解消しつつ、また、外国籍人材の受け入れ準備や、既存の自社従業員をグローバル人材として育成していくことにも繋げていくことができると期待しています。

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