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未来を拓く:海外人材活用と越境テレワークの可能性

2023.06.13 / COLUMN

未来を拓く:海外人材活用と越境テレワークの可能性

序章:生産年齢人口の問題と海外人材活用の重要性

1. 日本の生産年齢人口の問題の現状

日本は急速に高齢化が進む社会となっており、生産年齢人口(15歳から64歳まで)の減少は重大な問題となっています。これにより、労働力不足という深刻な問題が顕在化し、企業の成長や日本経済全体の活性化にブレーキをかけています。それは、企業の業績向上や新規事業展開を困難にし、結果として全体の経済成長を妨げる可能性があります。

2. 海外人材活用の重要性

こうした生産年齢人口の減少問題に対処するための一つの解決策として、海外からの人材活用が注目されています。異なるバックグラウンドを持つ海外人材が持ち込む新たな視点やアイデアは、ビジネスの革新や企業文化の多様化、組織のグローバル化に寄与します。さらに、海外人材の採用は、高度な技術や専門知識を持つ人材を獲得するための機会を広げます。海外人材の活用は、企業の競争力強化に直結し、生産年齢人口の減少による影響を緩和する可能性があります。

3. 特に注目すべきインドの人材について

中でも、特に注目すべきはインドの人材です。インドは世界最大の人口を誇り、平均年齢約28歳という若い世代の労働力が豊富で、さらに高度な教育を受けた人材が多いことが特徴として挙げられます。特にITやエンジニアリング分野では、高度なスキルを持つ人材が大量に育成されており、工学系の学生が毎年約150万人卒業しています。

しかし、これらの人材を活用するためには、日本企業自体がインド人材の特性を理解し、適切なマネジメント働きやすい環境を整備する必要があります。そして、その実現のために、現代の働き方のトレンドである「越境テレワーク」や「EOR」などの新しい働き方の制度を理解し、活用することが今求められているのです。

この記事では、日本におけるテレワークの現状や、それを踏まえた新しい働き方の実現のための具体的なステップと、成功事例を紹介します。これからの日本企業の成長と競争力強化のための新たな道筋として、ぜひご一読いただければと思います。

第一章:越境テレワーク(EOR)とは?

1. 越境テレワークの基本概念

越境テレワークとは、企業が海外の人材を自社のプロジェクトにアサインする一方で、その人材が自国にとどまりリモートで業務を遂行する働き方のことを指します。これにより、企業は直接海外に出向くことなく、海外の優秀な人材を活用することができます。さらに、テレワークは働き手側にとっても利点があり、働く場所に制約がないため、生活コストや食文化の違い等に影響を受けることなく、生活習慣や家族の都合などに合わせて柔軟な働き方を実現することが可能です。

2. EOR(Employer of Record)の概要とメリット

EOR(Employer of Record:記録上の雇用主)とは、企業が海外の労働者を直接雇用するのではなく、EORサービスを提供する企業がその地域の法規制を遵守して労働者を正式に雇用し、その労働者の管理業務(給与計算、労務管理、社会保障の提供、所得税の納税・申告など)を代行するサービスのことを指します。

EORの最大のメリットは、海外での雇用に伴うリスクや複雑さを大幅に軽減できることです。通常、企業が海外で人材を雇用する際には、その国に現地法人を設立し、その国の労働法規や税法について詳しく理解し、それに従って適切に管理・運用をしなければなりません。しかし、このプロセスは時間とリソースを大量に消費し、特に中小企業やスタートアップにとっては大きな負担となり得ます。

EORサービスを利用することで、企業は海外の労働法規や税法についての知識を持つ必要がなくなり、その分、自社の本業に集中することができます。さらに、EORサービスは、従業員がどの国にいてもその国の法律に準じた適切な労働条件を提供します。これにより、企業は海外の人材を安心して雇用することができるのです。

これらのメリットを理解することで、越境テレワークとEORを活用した新たな働き方の可能性を広げることができます。次の章では、海外人材活用に際しての障壁に対して、EORがどのようにその課題を解決をしているかをご説明したいと思います。

第二章:海外人材活用の障壁とEORの活用

1. 日本企業が直面する海外人材活用の課題

日本企業が海外人材を活用しようとする際に直面する課題は多岐にわたります。いちばん最初に思い浮かぶのは、言語の問題でしょう。コミュニケーションはビジネスの根幹であり、特に海外の人材と働く場合には、言語が大きな障壁となり得ますが、私のこれまでの実感として、日本人の英語能力は読み書きという点で比較的に高く、昨今のDeepL翻訳やChatGPTなどのツールも活用をしながら、チャットベースで丁寧にコミュニケーションを取ってみたら意外にできた、というケースは多いと感じます。特に、プログラミングという共通言語を持つソフトウェアエンジニアなどの職種においては顕著です。

一方で、何よりも大きな課題となっているのが、海外人材の起用方法に付随するものであると考えています。上述のとおり、その国に現地法人を設立して海外人材を雇用する場合には、現地法人の立ち上げにかかる手間・コスト、現地国における法令遵守や撤退リスクなど、課題は多岐にわたります。また、日本国内で直接雇用する場合にも、ビザの取得や住宅の手配、海外人材の受け入れ体制の整備など、多くの複雑な手続きや準備が必要となります。さらに、海外人材が日本に渡航をすることで、日本国内の給与水準がベースとなるため、海外人材の人件費が相対的に高くなり、また、日本語能力が向上すればするほど(本業のパフォーマンスとは関係のないスキルにおいて)市場価値が高まるため、さらに人件費が高騰し、企業の利益を圧迫します。

また、海外人材にとっても、母国を離れて日本で勤務をすることに少なからず不安に感じ、日本の商習慣や文化に馴染めないケースも散見されます。特にインド人の場合には、(1)家族を離れることの不安、(2)食文化の違い、(3)英語が通じない、という3つの障壁が他国の人材と比べてあまりに大きく、また、英語を公用語とする彼らにとって、より高い給与を提示する欧米系企業での就職を目指すほうが当然で、日本国内で直接インド人材を雇用するという形態については、多くのインド人にとって決してサステイナブルな選択肢とは言えません。

2. 日本国政府の動きと「特定技能」が抱える課題

「特定技能」とは、労働力不足が特に深刻化している特定産業分野において人材を確保することを目的に、2019年4月に創設された外国人の日本在留資格で、以下2つに区分されています。なお、2023年6月9日に、「特定技能2号」の対象業種を2業種から11業種に拡大する運用方針が閣議決定されました(建設や造船・舶用工業・農業・漁業・宿泊など9業種を追加)。

【特定技能1号(対象:14業種)】
・日本語能力検定N4レベル以上で、相当程度の知識又は経験が求められます。
・日本で通算最大5年間仕事ができますが家族の帯同が認められていません。

【特定技能2号(対象:2業種)】
・熟練した技能が必要で、技能試験で合格することが求められます。
・日本で期間に上限なく仕事ができ、永住権を取得でき、家族の帯同が認められています。

一方で、海外人材の活用において圧倒的に人気が高かったベトナムや中国から、昨今、日本が見放され始めているという実態も浮かび上がってきています。例えば、最近では日本ではなく、韓国や台湾を選択するベトナム人が増えており、語学要件が必要ない台湾への渡航労働者数の累計はすでに2023年1〜3月の四半期で日本を超えた、というデータもあります。海外人材が日本に渡航をして仕事をすることのメリットや、海外人材とそのご家族の人生、仕事のキャリアプランも見据えて、中長期的な視点で海外人材と日本企業がWin-Winとなるような具体的な政策が急務と言えます。

3. EORを活用することで解決を図る

そこで、これらの課題をEORのスキームを活用することによって緩和することができると考えています。EORサービスを提供する企業は、労働法規や税法など、海外の法規制を理解し、遵守することをその業務の一部としています。これにより、海外での雇用に伴う法的なリスクや管理の手間を大幅に軽減することができると同時に、企業はこれらの手続きに時間を費やすことなく、自社の主要な業務に集中することが可能となるのです。

さらに、EORを通じて雇用された従業員は、自国にとどまって働くことが可能となるため、家族との生活や言語の問題・生活習慣の違いなどの文化的な問題も軽減されます。また、期間限定で日本での研修制度を導入したり、任期付の出向制度(海外人材のための駐在員制度)を導入することで彼らにとってのキャリアプランを提案することもできるでしょう。これにより、日本企業は優秀な海外人材を安心して雇用することができ、人材の定着化にも大いに寄与します。

これらの点から、EORの活用は、日本企業が海外人材を効果的に活用するための有効な手段と言えます。次章では、日本におけるテレワークの現状と、大手企業の最新動向についてご紹介いたします。

第三章:テレワークの現状と課題

1. 国土交通省「テレワーク人口実態調査」の結果

国土交通省が2023年3月に発表した「テレワーク人口実態調査」によれば、コロナ禍を経て2019年当時は14.8%であった全国テレワーカー比率が2021年には27.0%にまで増加しました。しかし、2022年にはまたテレワーカーの人口が少し減る(26.1%)という現象が見られています。特に、首都圏と地方都市圏で大きな隔たりがあり、2022年のデータでは、首都圏のテレワーカー比率が40%程度に達している一方、地方都市圏では17.5%となっており、地方都市圏においてテレワークの普及が進んでいないことが指摘されています。

また、テレワークをしている人のうち、テレワークを引き続き継続したいと考えている人の割合は約87%と非常に高く、かつ、継続したいと考えている人のうち約60%近くが現状を上回る頻度でのテレワークを希望しているとの調査結果が出ています(現状のテレワーク日数は週平均1.8日だが、希望は週平均2.9日であった)。なお、テレワーク比率の高い職種は以下5職種でした。

  1. 管理職
  2. 研究職
  3. 専門・技術職(一部を除く)
  4. 事務職
  5. 営業職

首都圏では週1日以上のテレワークを認めている企業が31%存在しますが、地方都市圏ではそれが12%にとどまっています。これは地方都市圏におけるテレワーク環境の整備不足や、テレワークに対する理解(幹部の意識改革)がまだ浸透していないことが原因と考えられます。テレワークがもたらす労働生産性の向上や多様な働き方の実現、優秀な人材の確保、組織のグローバル化といった利点を享受するためには、地方都市圏におけるテレワークの普及促進もますます必要とされています。

2. 総務省「テレワークトップランナー2023」と厚生労働省「輝くテレワーク賞」紹介

テレワークの普及とその効果を実証し、他の企業に模範となる取り組みを行っている企業を表彰する「テレワークトップランナー2023」「輝くテレワーク賞」などの取り組みも行われています。これらは、テレワークの普及とその利点の認知度向上に大いに貢献しています。実際の事例を通じて、多くの企業がテレワークの可能性を理解し、積極的に導入を検討するきっかけを提供しています。

3. 三菱電機が制度化をすすめる越境リモート勤務

昨今のテレワーク導入の波に乗じて、三菱電機は2023年度から新たに「越境リモート勤務」制度を導入すると発表しました。これは、海外に居住しながら日本の本社などで働くという新たな働き方を可能にするもので、国内企業では先進的な取り組みとして注目されました。世界規模で居住地にとらわれない人材配置に道を開き、優秀な人材の獲得につなげることが期待されています。

2023年4月17日付の日本経済新聞の記事によると、三菱電機は「バーチャル・アサインメント」と呼ばれるこの新しい制度を導入することで、国による税務や労働規制の違いによる障壁をなくし、海外人材を本社のチームに活用することを実現しようとしています。まずは販売戦略や人事施策などに関する業務に海外人材を起用することで、各地域に特有の商習慣や文化に精通した人材を世界から集め、効果的な戦略を打ち出すための一助となると期待されているようです。新制度の導入により、これまでは国をまたぐ異動に際して赴任が難しいケースや、または望んでもチャンスに恵まれなかった従業員も、時差などのハードルはあるものの、より柔軟にキャリアを形成できるようになると思われます。

しかしながら、これらの取り組みにもかかわらず、上述のとおり全体として見るとテレワークの普及率はまだ高いとは言えません。これらの課題を解決するためには、日本国内に閉じた人材戦略や事業展開ではなく、世界から優秀な人材を獲得し、かつ、組織や事業のグローバル化を推進する「越境テレワーク」の導入という新たな視点が求められます。次章では、その具体的な手法と実例を紹介します。

第四章:インドにおける越境テレワーク活用の事例紹介

1. 日本企業によるEOR活用の成功例

インドにおける越境テレワークを活用した成功例は多くありますが、その活用方法については多種多様で、各社が抱える課題やフェーズによって、EORの活用方法がそれぞれ異なる点が面白いところです。

例えば、あるスタートアップは、自社の開発チームを強化するためにEORのサービスを利用してインド人ソフトウェアエンジニアを試験的に雇用。日本に渡航させる前にリモートで業務を依頼し、候補者のパフォーマンスを事前に見極めることができました(トライアル雇用)

また、別のスタートアップは、インドで開発拠点を設立することを見据えて、まずはEORのサービスを利用して開発チームをインド国内につくり、インドへの進出を試験的にリモートで進め、本格的な拠点設立に向けて準備を進めています(トライアル進出)

さらに、ある中小企業(商社)は、インド市場および顧客ニーズの把握のためにEORのサービスを利用してインド人を雇用、インド市場向けの商品・サービスの開発とインドへの本格的な進出時期の検討を進めています(トライアル調査)

なお、インド人材を雇用したり、インド進出の準備を進めるプロセスにおいて、言語や文化・商習慣・法規制といった海外進出にともなう課題やハードルを、EORサービスを提供する企業が一緒に伴走することができるため、効率的にその課題を一緒に解決しながら進めていくことができるのもEORを活用する副次的なメリットです。EORサービス提供期間を、本格的なインド進出の準備期間と位置づけ、インド市場や商習慣、税務・労務を中心としたコンプライアンス実務に対する理解を徐々に深めていくことでインドという国への足がかりを少しずつ醸成していくことが可能となります。

2. インド人材が活躍する具体的な業務とは?

インド人材は世界中でかつ幅広い分野で活躍をしていますが特に、IT分野やエンジニアリング分野、バックオフィス分野等における人材供給国として高い評価を得てきました。そのため、越境テレワークの対象としてインド人材を活用することは、例えば、ソフトウェア開発、ウェブ開発、データ分析、AI技術開発、経理事務、コールセンター事務などの分野で特に有効で、インド人材の技術力とコストパフォーマンスの高さをうまく活用することができます。また、上述のとおり市場調査や消費者ニーズの把握、人的ネットワークの構築などにおいても、インド人材のインターパーソナルスキル(対人関係構築力)を多分に活かすことができるため、市場開拓・顧客ニーズ開拓においても力を発揮できると考えています。

以上のように、越境テレワークを通じた海外人材の活用は、日本企業にとって大きな機会を提供しています。次章では、より具体的な手法として、EORを活用するための具体的なステップを紹介します。

最終章:日本企業が海外人材を越境テレワークで活用するためのステップ

1. EOR活用に向けた実践的なステップ

海外人材をEORのサービスを通じて活用することを検討している企業に向けて、以下に実践的なステップを提案します。

  1. 自社のニーズの特定: 海外人材を活用することでどのような問題を解決したいのか、どのような業務を海外人材に依頼したいのかを明確にします。
  2. 適切なEORサービス事業者の選定: 2023年6月現在で、インドに特化したEORサービス事業者は弊社以外にほとんどありませんが、海外人材を幅広くカバーしているEORサービス事業者は多いため、自社のニーズに最も合致したものを選びます。この際に、EORサービス事業者の実績やサービス内容、対応地域における税務の専門性、費用等を比較検討します。
  3. チェックリストに基づく事前リスク評価: 海外人材に依頼する業務内容に基づき、海外人材をリモートで活用することの潜在的なリスク(特にPE課税リスク)の有無を事前に対象国の専門家を通じて評価・明確にします。また、リスクを排除・軽減するための勤務体制や契約形態について専門家からアドバイスを得ます。
  4. 候補者の選定と雇用: 人材紹介会社等を通じて海外人材の候補者を選定し、内定通知を出します。その後、EORサービス事業者との契約を締結し、内定を出した海外人材との雇用契約を、EORを通じて締結します。
  5. オンボーディングと業務の開始: 入社が確定した海外人材に対するオリエンテーションを行い、業務を開始します。ここでは、社内のコミュニケーション方法の確認、給与計算や税務対応・労務管理体制などを含むEORの役割についての認識を共有し、日本企業と海外人材、EORサービス事業者の3者が、日々の業務とバックオフィスそれぞれの管理体制についてを再確認することが重要です。

当社INDIGITALがEORサービス事業者としてご支援させていただく場合は、主に以下4つの流れがサポートをさせていただくのが一般的です。

2. 越境テレワークの普及にかかる今後の展望

日本の生産年齢人口の減少という課題を解決するため、海外、特にインドの人材を活用することの重要性は今後ますます高まっていきます。そして、そのための有力な手段となり得る「越境テレワーク」「EOR」について紹介をしてきました。

越境テレワークとEORは、海外の優秀な人材を雇用する際のハードルを大幅に減らすことができます。これは特に予算が限られている中小企業やスタートアップにとって、海外進出や海外人材の活用を現実的な選択肢とするための大きな機会を提供します。また、越境テレワークの導入は、地方都市圏におけるテレワークの普及と、そこから生まれる新たな働き方の多様化にもつながります。

今後の展望として、すべての業務で、という訳にはいかないと思いますが、リモート可能な職種が国境を越えていくことの可能性は大きいと思います。海外人材の活用という文脈においては、「海外からのテレワーク」という意味合いが強くなりますが、本記事でも紹介をした三菱電機の事例のように「海外へのテレワーク」という場所を問わない新しい取り組みが広がっていく可能性もあります。今後も、テレワークと海外人材の活用を推進するための政策や活動に注目し、その最前線で新たな価値創出に挑戦していきたいと思います。

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