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多様化・オンデマンド化が進むインドのモビリティ市場

2023.07.16 / TRENDS

多様化・オンデマンド化が進むインドのモビリティ市場

人口がついに世界一となったインドですが、都会の交通事情は決してよいものだとは言えません。交通に関するさまざまな問題を解決すべく、インドのモビリティ市場の発展が進んできています。今回は、多様化・オンデマンド化が進むインドのモビリティ市場について紹介します。

1. 多様化が進むインドのモビリティ市場

インドでは電気自動車の開発や自動車シェアなど、多様なサービスが展開されています。

その背景にあるのが深刻な大気汚染と渋滞です。

大気汚染度を測るIQAirの発表では、2021年にはもっとも大気汚染がひどい世界10都市のうちインド6都市がランクインしました。(i)

さらに、オランダのカーナビゲーション・電子地図サービス企業のトムトムが2020年2月3日に発表した「トムトムトラフィックインデックス」では、世界一渋滞がひどい都市としてインドのバンガロールが選出されています。(ii)

大気汚染や渋滞によって健康被害や経済活動への影響が深刻化し、無視できなくなっています。これらを受け、政府や企業は電気自動車の普及や自動車シェアへの取り組みを強化しています。

自動車シェアはライドシェアと車両シェアの2つから構成されます。自動車シェアには、交通費の節約、新規の雇用創出、高騰するガソリンの節約などのメリットが挙げられ、すでにインドでは広く普及しています。

特にインド政府は電気自動車の普及に力を入れています。FAME II (Faster Adoption and Manufacturing of EVs in India Phase II)に代表されるインド中央政府が実施する国内EV普及促進プログラムもあれば、 下記のようには各州による電気自動車を推進するための政策もありますです。

州名政策内容
デリー首都圏三輪の電気自動車の購入に最大30,000ルピー、四輪の場合は150,000 ルピーの補助金を交付
グジャラート州三輪の電気自動車の購入に最大50,000ルピー、四輪の場合は150,000 ルピーの補助金を交付

Gujarat Electric Vehicle Policy 2021を発表し、EV購入者への補助金と州内の充電スタンド設置者に補助金を交付
マハラシュトラ州三輪の電気自動車の購入に最大30,000ルピー、四輪の場合は150,000 ルピーの補助金を交付
電気自動車の州別年間生産能力でインド国内トップを目指すこと、州内の主要都市7カ所と国道4路線沿いに計2,500カ所の充電ステーションを設置すること、2022年4月以降州政府が購入する全ての車両は電気自動車とすることを発表 (iii)
ウッタルプラデシュ州2022年10月に新EV製造政策を発表
EVおよび同関連機器・電池製造の国際拠点、2030年までに政府車両を100%EV化を目指す(iv)
アンドラプラデシュ州EVパークの土地の割り当ての決定
EV関連スタートアップ、EVクラスター、製造施設の開発者に対し、施設への投資額の50%までを支援 (iv)

インド中央政府による政策のひとつであるFAME IIの概要は以下の通りですが、その他の政策も含めたインドEV市場の詳細についてはこちらの記事をご覧ください。

2. オンデマンドで利用できるモビリティサービス

インドで展開中のオンデマンド・モビリティサービスには下記が挙げられます。

  • マイクロモビリティ
  • ライドヘイリング
  • ライドシェア
  • 車両サブスクリプション

それぞれのサービスの特徴と代表企業を紹介します。

2-1. マイクロモビリティ

マイクロモビリティとは、近距離を1人で移動するための手段のことです。Bounce、Yulu、Zyppは電動スクーターのレンタルを行っており、中でもYuluはバンガロール、プネ、デリー、チェンナイ、コルカタなど主要な大都市でサービスを展開している電動スクーターのトッププレーヤーです。

Yuluは初乗りが20ルピーで、1分ごとに2ルピーが加算されます。電動スクーターで小回りが効き、料金も手頃なことからSwiggyやZomatoなどの配達員からも広く支持されています。

また、マイクロモビリティの注目すべきポイントとして、二輪の免許を持っておらずギグエコノミーから取り残されていた多くの若者に対し、免許もヘルメットも必要のない電動スクーターを提供することで、多くの雇用創出にも成功している点が挙げられる。

サービス企業名創業ヘッドオフィスウェブサイト
BOUNCEELECTRIC 1 PRIVATE LIMITED2018年ベンガルールhttps://bounceinfinity.com/
Yulu Bikes Private Limited2019年ベンガルールhttps://www.yulu.bike/
BycyShare Technologies Private Limited 2017年グルガオンhttps://zypp.app/

2-2. ライドヘイリング

AirBnBでは宿泊施設と宿泊者の2方向にサービスが提供されるように、2者に対して提供される送迎サービスのことをライドヘイリングと呼びます。グローバル企業ではUberがライドヘイリングにあてはまります。

OlaとUberが長年インド市場のライドヘイリングの2大プレイヤーでしたが、現在はBluSmartが注目を集めています。

BluSmartは、全車両を電気自動車でサービス展開しています。電気自動車はBluSmartから提供されるもので、ランニングコストの節約やより正確な運転データの取得などの長所があります。Olaを利用した人なら一度は経験のある「運転手によるライドのキャンセル」やピーク時の料金割り増しなどもありません。(v) 

デリー・グルガオンやバンガロールなどの大都市でサービスを拡大中です。

サービス企業名創業ヘッドオフィスウェブサイト
Ola Electric Mobility Private Limited2010年ムンバイhttps://www.olacabs.com/
Blu-Smart Mobility Private Limited2019年グルガオンhttps://blu-smart.com/

2-3. ライドシェア

シェアライドは、近い目的地を目指す複数人が1つの車両を共有するサービスです。

Quick Rideはオフィスに通う会社員のためのライドシェアで、「We are on a mission to remove 1 million cars from the roads, everyday.(毎日100万台の車両の走行を減らすことが我々のミッションだ)」と掲げています。

交通費の節約、温室効果ガス排出量の削減、同乗で生まれるネットワークをベネフィットとして挙げ、ライド選択の際にはマッチング要素も含まれています。

インドでは大規模なビジネスパークに複数企業が集まっているため、目的地をともにするオフィスワーカーが多いことも特徴的です。

同じくオフィス通勤者のライドシェアを提供するサービスにSmartCommuteがありますが、2021年5月に電気自動車ベンダーのLithium Urbanに買収されました。(vi)

サービス企業名創業ヘッドオフィスウェブサイト
iDisha Info Labs Private Limited2015年ベンガルールhttps://quickride.in/
Lithium Urban Technologies Private Limited2014年ベンガルールhttps://project-lithium.com/

2-4. 車両サブスクリプション

車両のシェアのためのプラットフォームです。Zoomcarはインドのレンタカー市場でも最大規模を誇っており、煩わしいペーパーワークなしでアプリやウェブから車両の予約ができます。インドでは1日単位でのレンタルが主流ですが、Zoomcarでは近距離や短時間でのレンタルにも対応しています。また、所有している車両をレンタカーとして貸し出すことも可能です。

サービス企業名創業ヘッドオフィスウェブサイト
Zoomcar™ Limited2013年ベンガルールhttps://www.zoomcar.com/
Myles Automotive Technologies Private Limited2013年ニューデリーhttps://www.mylescars.com/

3. インドのモビリティ市場に参入している外資系企業

各分野で主要プレーヤーが市場を牽引していますが、インドのモビリティ市場には多数の外資系企業も参入しています。その中でも躍進を見せているのが、BlaBlaCarとBlade Indiaです。

3-1. BlaBlaCar

引用:https://www.blablacar.in/

フランス発のオンライン相乗りマーケットプレイスがBlaBlaCarです。同じ目的地まで移動したいドライバーと同乗者をBlaBlaCarが結びます。ウェブサイトやスマートフォンアプリを通じて、他の同乗者と旅行代金を割り勘にできるのが特徴です。

デリー→ムンバイ、チェンナイ→バンガロールなどの大都市間の移動に使われることが多く、バスよりも快適かつ柔軟な移動ができる選択肢として支持が集まっています。

3-2. Blade India

引用:https://flyblade.in/

ニューヨーク発のヘリコプターサービスで、バンガロール、ムンバイ、プネなどで展開しています。

バンガロールでは、空港第1ターミナルから中心部に就航しており、陸路では陸路では1時間半〜2時間(渋滞時には3時間)かかるところを20分で移動できてしまいます。片道6,000ルピー(2023年1月当時)と、国内の航空券よりも高い値段ではありますが、ユニークなモビリティサービスとして富裕層に利用されています。

4. インドのモビリティ市場がさらに活発に

日本が技術面・資金面で支援しているメトロや長距離鉄道などもありつつも、個人による車両の移動がまだまだインドでは主流です。しかし、人口の多さも合間って大気汚染や渋滞が世界最悪レベルに達しており、政府も状況の改善に本腰を入れて取り組んでいます。

インド政府は中でも電気自動車の普及を強く推進しており、今後も電気自動車を中心に据えたスタートアップ企業によるモビリティ改革が進んでいくことが予想されます。


<参照元>

(i) デリー首都圏の大気汚染対策が企業活動に影響(インド)

(ii) インドの都市問題解決に挑戦するモビリティースタートアップ 

(iii) マハーラーシュトラ州、新たなEV政策発表

(iv) インドにおけるEV普及に向けた取り組み

(v) BluSmart — The ultimate solution to India’s ride-hailing woes?

(vi) Lithium Urban acquires SmartCommute

 

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