トピックス
2024.04.16 / COLUMN
(文責:田中啓介)
オフショアとは、一般的にコールセンターやカスタマーサポート、データ入力などのBPO(ビジネスプロセスアウトソーシング)やIT関連のプロジェクトを海外の企業に委託することですが、「オフショア開発」とは特にソフトウェアやアプリ、WEBシステムの開発、それらの運用・保守業務を委託する開発手法のことを指します。このビジネスモデルが注目をされてきた背景に、労働コストが比較的低い国々のリソースを活用するという目的がありますが、昨今のオフショア開発においてはコスト削減ではなく、グローバル化が進む現代において、高度IT人材の不足に直面する日本企業が国際競争力を保つための重要なグローバル人材戦略として注目されています。
インドはオフショア開発の目的地として非常に人気がありますが、その理由は主に以下3つに大別されます。
インドは世界最大の英語話者人口を持ち、これにより国際的なビジネスにおいてもコミュニケーションの障壁が少ないのが特徴です。インドの高等教育機関は毎年約数百万人のSTEM(科学、技術、工学、数学)教育を受けた卒業生を輩出しています。世界の理工系学位取得者数に占めるインド人の割合が20.6%であるのに対し、日本は1.6%にしか過ぎません(※1)。インド人エンジニアを多く抱えるインド地場ITサービス大手トップであるタタ・コンサルタンシー・サービシズ(TCS)の従業員数は45万人を超え、大手トップ5社の合計で従業員100万人を超えます。
また、インドの労働コストは西洋諸国と比較して低く、同じ質の作業をより低コストで提供できることから、これまでインドのエンジニアは多くのグローバル企業から選ばれてきました。たとえば、アメリカやヨーロッパのエンジニアが時給50ドルから100ドル以上を要求するケースもある中で、インド国内の多くのエンジニアは時給15ドルから30ドルで雇用可能です。この大きなコスト差が、コスト効率を重視する企業にとって大きな魅力となっています。ちなみに、日本のエンジニアの時給は2,000円から5,000円程度(約15ドルから30ドル程度)と言われ、東南アジア諸国を考慮しても、上述のとおり、日本にとってのオフショア開発の目的はもはやコスト削減ではなくなってきています。
インドは世界有数のエンジニアリング教育を誇り、毎年多くの高度な教育を受けた技術者が市場に参入しています。インドの技術者は、最新のプログラミング言語や開発手法に精通しており、その技術力は世界中の企業から高く評価されています。特に人工知能(AI)や機械学習(ML)、アプリケーションのカスタマイズ、クロスプラットフォーム開発、クラウドコンピューティング、ITインフラストラクチャの管理、研究開発(R&D)などの分野で優れた実績を持っています。これらの技術力を支えている背景には、インド工科大学(IIT)を中心とした世界有数の技術教育機関を多数有していること、GAFAMを中心とする欧米ビッグテックで最先端の開発経験を積んでいるインド人が多いこと、また、インド国内のデジタルインフラの改善を目的とする「デジタルインディア(Digital India)」(※2)や、教育機関での新しいイノベーションと起業家精神を育てるプログラム「アタル・イノベーション・ミッション(Atal Innovation Mission, AIM)」(※3)、創業支援やスタートアップに対する直接的な優遇措置を提供する「スタートアップインディア(Startup India)」(※4)など、インド政府によるイニシアチブやスタートアップ支援策が、インド国内の技術力を底上げしている一面もあるでしょう。こうした背景もあり、インドではもはやオフショア開発拠点としての役割を超えて、より上流の仕事を担うようになったGCC(グローバルケーパビリティセンター)としての機能を持ち始めるケースが増えています。「GCC」とは、ITサービスやエンジニアリング、研究開発機能を兼ね備えたチームやその組織のことを指し、国境を超えたグローバルな事業展開をサポートするための戦略拠点です。
また、インドがグローバルなオフショア開発市場で高い評価を受けている要因の一つに、インターパーソナルスキルがあります。「インターパーソナルスキル」とは、人間関係構築能力とも言えるスキルで、多様な文化・価値観・宗教・言語を持つインドという国で生まれ育ったインド人材が、根源的に持つコミュニケーション能力、チームワーク、問題解決能力など、プロジェクトを成功に導くために極めて重要となる人間関係スキルです。国際的なビジネスシーンにおいて、一切物怖じせずに多国籍人材と分け隔てなくコミュニケーションが取れ、協調性を持って異なる文化的背景にも配慮しながらプロアクティブにチームを構築でき、予期せぬトラブルが発生した際にも冷静に対処できる、むしろ追い込まれたときにこそ創造的な解決策をも見出すことができる能力・マインドセット(ジュガール:Jugaad)を持ち合わせているインド人は、私たち日本人にとって圧倒的に強力なパートナーとなり得ます。なぜこれだけ多くのインド人が世界の超一流企業のトップになれるのか、その理由のひとつにもこのスキルがあると考えています。
インドはテクノロジーの革新とソフトウェア開発の中心地として、世界中から注目を集めてきました。特にベンガルール、デリーNCR、ムンバイ・プネといった都市は、優れたITインフラとスタートアップエコシステムで知られており、多くのテクノロジー企業がこれらの都市に拠点を置いています(※5)。
特にベンガルールは「インドのシリコンバレー」と称され、多数のIT企業が集まるテクノロジーのハブです。この都市はインド全土で100社超あるユニコーン企業の40%以上を輩出しており、国内外から多くの最先端技術者が集まっています。インド最大のスタートアップエコシステムを持つ都市として新しい技術・スタートアップが次々と生まれているのです(※6)。
また、近年重要なITセンターとして急速に成長しているハイデラバードでは、最先端のITインフラが整備されたテクノロジーパークが開発されており、国際的な企業がオフィスを構えています。例えば、マイクロソフトは彼らの重要な製品であるWindowsやOfficeの開発を支える技術基盤としてハイデラバードにインド開発センター(IDC)を設置しており、クラウドコンピューティング、エンタープライズアプリケーション、AIなどの最先端技術開発をハイデラバードで行っています。また、2015年に設立されたT-Hubはテランガナ州政府の支援を受けているスタートアップインキュベーターで、インド国内外のスタートアップの成長を加速することを目的に活動しています。2024年2月には、国際協力機構(JICA)もT-Hubを中心としたハイデラバードのスタートアップエコシステムに約230億円もの円借款を供与することを発表しており、インドの社会課題の解決に取り組む企業育成に力を入れています。(※7)
インドのスタートアップ特化型メディアYourstory(ユアストーリー)が主催するインド国内最大級のスタートアップイベントTechsparksは、これまで50万人超の参加者を集めてきました。2023年9月にベンガルールで開催された『Techsparks 2023』は50社以上のインド国内外スタートアップがブースを出展し、日本からは、AWL、Findy、GINCO、I’mbesideyou、Potlachの計5社がJETROの支援を通じて参加しています。(※8)
少し余談になりますが、このイベントで最も大きな出展ブースを出していた企業が、開発プラットフォーム(AI powered composable software platform)を提供している英国のスタートアップBuilder.aiです。(※9)Builder.aiは、技術的な知識がない人でも簡単にアプリ開発ができるように設計されたプラットフォームです。このサービスは、アプリ開発をピザの注文ほど簡単にすることを目指しており、AIを活用して開発プロセスを自動化し、テンプレート選択や機能の組み合わせを簡単に行えるようにしています。
Builder.aiの創業者は、自身が開発者に失望した経験から、ソフトウェア開発を誰でも簡単に行えるようにすることを目指しました。このプラットフォームは、ユーザーがマーケットプレイスから必要な機能を選択し、ECサイトのようにカートに入れて決済することで、オーダーメイドのアプリを安価に発注できるようになっています。開発にあたっては、世界中のフリーランスエンジニアから最適な人材を選び出し、チームを組成してプロジェクトを進めます。過去のプロジェクトで開発したコンポーネントを再利用することで、開発スピードを上げ、コストを削減することを実現しています。内部開発チームを必要とせずに迅速にアプリを開発できる「Studio Rapid」、アイデアを数日で動作するプロトタイプに変換する「Builder Now」、ビジネスに必要なカスタムアプリを専門家と共に開発する「Builder Studio」、オンライン販売に必要な全ての機能を提供する「Studio Store」など、さまざまなニーズに応えるサービスを展開しています。
ここでは、日本とインドの文化的適合性について考察します。文化的価値観は、私たちが生まれ育った環境により私たち自身が少しずつ社会化されていくプロセスにおいて、無意識の中に刷り込まれるものです。無意識に異なる相手を色メガネ(=バイアス)で見てしまう根源とも言えるもの。ここでは、ホフステードの6次元モデルを参考に、インドと日本の文化的類似点および違いについて考察したいと思います。
このモデルは、世界的権威のオランダの社会心理学者ゲールト・ホフステードによって開発された文化間比較のフレームワークです。異なる国や地域の文化を比較分析する際に用いられ、文化の違いを理解するための重要なツールとして世界で認知されています。宮森千嘉子氏と宮林隆吉氏の共著である『経営戦略としての異文化適用力』を参考にしながら、私自身のインドでの経験も踏まえて考察していきたいと思います。なお、日本とインドそれぞれのスコアについては50が中間地点を表し、スコアが高いほどその文化的傾向が強いことを表します。(※10)(※11)(※12)
日本のスコア(54):日本は比較的に高い権力距離指数を持ち、組織や社会において階層を受け入れる傾向があります。これは、上司と部下の間に一定の権威と敬意が存在することを示しています。
インドのスコア(77):インドは日本以上に高い権力距離を持っており、社会的・組織的階層が当然に受け入れられています。日本以上に権威への服従が強く求められる傾向にあります。
影響に関する個人的考察
両国ともに階層意識が強いため、ソフトウェア開発プロジェクトでは意思決定が上層部に集中しやすく、下層からの自由な意見交換が抑制される可能性があります。ただし、インドは極めて強い権力距離を持つ傾向にあるため、社長・上司の言うことは絶対であり、曖昧な依頼・間違った指示は、間違ったままに取り組む傾向にあります(日本人であればその曖昧さや間違いに気づいてそれを汲み取って作業する傾向にあると思います)。したがって、日本人がインド人のマネジメントを行う場合には、的確・明確な指示だけでなく、作業の目的、作業が完了しなかった場合の弊害、発生し得る問題などを細かく伝えることで本人に思考を巡らせる工夫が必要です。また、インドのオフショア開発拠点にリーダーシップを発揮してもらうためには下層からのアイデアを積極的に引き上げる仕組みや、フラットな関係性の構築努力はとても重要で、状況によっては一定の権限移譲を行なった方が良い場合も想定されます。
日本のスコア(46):意外かもしれませんが、日本は世界的に見るとちょうど中間に位置しています。ある調査によると、自分以外の周りの人たちは集団主義的な考え方を持ち主である考えている一方で、「自分だけは例外」と思い込んでいる特殊な傾向を持つと言われます。上述の書籍『経営戦略としての異文化適用力』によると、「この日本人特有の「集団主義のパラドックス」が起きる原因を「個人主義的に行動したら周りの人にたちに嫌われてしまうのではないか」と皆が思い込んでいる」と説明しています。
インドのスコア(48):インド人は自己主張が強いから日本とは逆に個人主義的な傾向が強いのでは?と思うかもしれませんが、意外にも日本と同様にちょうど中間に位置している国です。家族や地域コミュニティが重視される一方で、個人の自己主張が尊重され、自分自身の言動にもある程度責任を持ちます。
影響に関する個人的考察
ソフトウェア開発プロジェクトにおいて、日本とインドのスコアがほぼ同じである点に加え、プログラミングという共通言語による助けもあり、集団主義的傾向が強い(と私たちが思い込んでいる)日本と、個人主義的傾向が強い(と私たちが思い込んでいる)インドの相性は実はとても良いのではないかと考えます。集団的調和を過度に期待せず、インド人の個人的主義・主張を尊重していく中で、日本とインドの2国間の絶妙な調和を生む可能性があり、個人主義志向と集団主義志向をバランスよく兼ね備えた調和から新しいアイデアが出てくる可能性にも期待したいところです。
日本のスコア(95):日本は極めて男性性の高い社会です。競争が激しく、(仮に体調不良や一定の不運に見舞われたとしても)設定した目標は必ず達成し、個人の責任を果たすこと、そして、社会的に成功することが強く求められる傾向にあります。
インドのスコア(56):インドは中程度の男性性を示します。競争も重要ですが、生活の質、家族との時間もそれなりに重視される傾向にあります。
影響に関する個人的考察
ソフトウェア開発プロジェクトにおいても、日本では各エンジニア個人レベルに対して納期管理と品質管理が何よりも重要視される傾向にあります。一方で、インドでは、生活の質や家族との時間を保ちながらも成果を出すバランスが求められます。したがって、日本企業がインド人エンジニアと一緒に開発プロジェクトを管理・運営していく上では、緊急事態やトラブル発生時における柔軟性・バックアップ体制を合わせ持っておくことがとても大切です。例えば、開発プロジェクトのインド人責任者が、家族や自身の病気を理由に突然プロジェクトから離脱することとなった場合には、(あなたの不在期間中、仕事はどうするつもりだ、と問いたくなる気持ちはわかりますが)まずは家族や体調のことを気づかい、「仕事のことは何とかするからまずは家族のことを優先しなさい」というメッセージを伝える必要があるのです。
日本のスコア(92):日本は非常に高い不確実性回避指数を持ち、不確実性を脅威に感じる傾向があります。その脅威・リスクを排除するために計画性を重視し、形式やルール、規則を必要とする傾向にあります。
インドのスコア(40):インドは不確実性回避指数が他国より比較的に低くなっています。あいまいな状況や不慣れなリスク等の不確実性は日常において当然のことと考える傾向にあり、むしろその状況から創造的なアプローチを取ることさえも可能とします。
影響に関する個人的考察
日本では、ソフトウェア開発プロジェクトも計画的に進められ、一度決めたことに対する変更や、計画をせずに走りながら考えることには抵抗があるケースも多いでしょう。一方でインドでは、失敗することを織り込みながらスピードを優先して進める傾向にあり、途中で変更したり、リスクを取って新しい技術や方法を試すことも多く、失敗をしつつも、それが革新的な開発手法につながるきっかけとなる可能性もあります。日本の強みを生かすと同時に、インド人ソフトウェアエンジニアの意見も尊重しながら、まずはやってみる、状況に応じて柔軟に変更する、というマインドセットも持ち合わせておき、状況に応じて積極的に取り入れていくことが重要になるものと考えます。過度な形式・ルール・規則はインド人に理解されない可能性があるため、実務的な重要性やそれに費やす時間・コスト(経済合理性)、それが不在の場合のリスク許容性の観点から説明ができない場合は、形式にとらわれない柔軟な思考も大切になります。
日本のスコア(88):日本は極めて長期志向です。10年後、20年後の利益のために現在の利益を犠牲にする傾向があります。また、短期志向の強い人から見ると、「判断力がない」「決断が遅い」と思われる傾向にあります。
インドのスコア(51):インドは長期志向も少し見られますが、日本ほどではありません。短期的な言動・成果も重要視される傾向にあります。
影響に関する個人的考察
両国ともある程度の長期的な視点を持っているため、原則、ソフトウェア開発では持続可能な技術と解決策が重視されますが、日本人の方がより長期的な計画に重きを置く傾向にあるため、インド人の方の突発的なアイデアや自己主張に対して「全体像が見えていない」「短絡的で浅はか」と思ってしまう可能性があります。ここはあくまで文化的な違いであると理解をして、インド人の短期的な視点でのアイデアや言動も尊重する姿勢を見せましょう。
日本のスコア(42): 日本は世界の中では中間よりもやや抑制志向に位置しています。上述の「集団主義のパラドックス」にも少しつながるところがあるように思いますが、自分以外の周りに対しては社会規範による欲望の制限が期待されている傾向にあるものの、昨今の傾向としてはより「自分の人生を好きなように」「自由に楽しみたい」という個人の欲求は強くなっているように感じます。
インドのスコア(26): 意外かもしれませんがインドは世界の中でもかなり抑制志向の強いネガティブな国のひとつです。実際に10年超インドに住んでみて感じるその背景としては、自身が生まれ持ったカーストや所属する家族・コミュニティ、所得レベル、宗教などにより簡単には変えられない自身のアイデンティティや時に受け入れ難い現実、社会や家族から暗黙的に期待される世間体のようなものと理想との間にあるギャップを忍耐力・抑制・節制でもって受け入れるインド人の文化的特殊性を感じます。
影響に関する個人的考察
ソフトウェア開発プロジェクトにおいても、両国に見られる一定の規律や忍耐力は文化的類似点として注目でき、両国が一緒に開発プロジェクトを推進していく上での強みにもなり得る点であると考えます。一方で、日本における「自分の人生を好きなように」「自由に楽しみたい」という個人的な欲求を誘発できるモチベーションの根源をいかに引き出せるか、また、インドにおける競争社会や世間体からのプレッシャーに対して日本企業として応えていけるだけの給与水準と得られる経験、発展的キャリアプランを見える化していくことが、開発プロジェクトの成功にも大きく寄与するものと感じます。
このように、インドと日本はいくつかの文化的側面で類似点を持ちつつも、特に不確実性回避・男性性女性性・長期志向の3つの面で大きな違いがあると言えます。これらの文化的違いと類似点を理解し、オフショア開発拠点を立ち上げる際にも特に文化的違いを理解した上で適切に対応することで、インドと日本間のビジネスの際に発生する可能性のある摩擦を最小限に抑え、より良い協力関係を築くことに一歩近づけるのではないでしょうか。
インドでのオフショア開発やGCC(グローバルケーパビリティセンター)の設置には複数のアプローチが存在します。ここでは、主に3つの方法論に焦点を当て、それぞれのメリットと注意点を解説いたします。
まず、オフショア開発において多くの企業が選択する一つ目の方法は、インド国内の開発会社に外注をすることです。この方法の最大の利点は、初期投資コストを大幅に削減できる点にあります。また、プロジェクトに応じて柔軟に契約を行うことができ、必要な時だけリソースを確保できるため、効率的です。
しかしながら、当然のこととして費用が高額になるだけでなく、外注先のサービス品質が一定でないことや、求める技術力を持ったエンジニアを継続的に確保できるかどうかの担保とそのコントロールが難しいことが挙げられます。外注先の開発スタイルが自社のプロジェクト管理方法や企業文化と合わない場合、コミュニケーションの問題やプロジェクトの遅延、プロダクトの致命的欠陥が発生するリスクもあります。
二つ目の方法は、自社でインド国内に開発拠点やGCCを設立すること。この方法の利点は、開発のコストや品質に対する完全なコントロールと直接的な管理が可能になる点です。自社の厳しい品質基準を適用し、開発チームとしての成熟度や文化的シナジーも考慮しながら各メンバーの連携を高めていくことができます。
注意点としては、このアプローチには大きな初期投資が必要であること、さらに現地での法人設立後のコンプライアンスや法令遵守に関するリスクが伴います。現地法人の運営コストや法的要件を満たすための手間が継続的に発生し、本業以外に多大な労力・コストを割かなければならなくなった場合には本末転倒です。
そこでご提案をしたいのが三つ目の方法、Employer of Record (EOR)サービスを活用してリモート開発拠点を設立することです。EORサービスを利用することで、自社で現地法人を設立することなく、現地の労働法規に基づいたインド人ソフトウェアエンジニアを中心としたテック人材の雇用が可能となります。EOR事業者に物理的なオフィススペースを確保してもらうことも可能です。これにより、法的リスクやコンプライアンス対応等を含む運営コストを大幅に抑えつつ、自社の管理下において開発チームをリモートで構築できます。
この方法は、現地法人設立のコストとリスクを避けつつ、自社の直接的な影響下で開発チームを構築したい企業にとって最適な解決策です。また、EORを通じて、技術力の高いテック人材を安全かつ迅速に確保し、プロジェクトの規模に応じて柔軟に人員補充や削減ができる柔軟性・拡張性をも担保します。
EORに関する記事はこちらをご高覧ください。
1-1. クライアントインタビュー①:越境テレワークを通じてインドIT人材の受け入れがスムーズに。
https://indigital.co.jp/topics/column/interview-01/
1-2. クライアントインタビュー②:現地法人を設立せずにインド駐在を「スピーディに実現できるスキームがいい」
https://indigital.co.jp/topics/column/interview-02/
1-3. クライアントインタビュー③:EORの活用を通じてインドにリモート開発拠点を立ち上げ
https://indigital.co.jp/topics/column/interview-03/
2. なぜ、今EORが注目されているのか?
https://indigital.co.jp/topics/column/why_eor/
3. インドにおけるEOR導入とPE課税:リスクと対策
https://indigital.co.jp/topics/column/eor_risk_solution/
4. 未来を拓く:海外人材活用と越境テレワークの可能性
https://indigital.co.jp/topics/column/opportunity_eor/
5. EORの活用による企業リスク管理についての考察
https://indigital.co.jp/topics/column/eor_risk_management/
これまでインドのオフショア開発やGCC(グローバルケーパビリティセンター)の設置が注目されている背景や、文化的類似点や違いから見る日本とインドの協働戦略、そして、オフショア開発の方法論について考察してきました。インドがオフショア開発拠点やGCC設置拠点の中心地としてさらなる成長を遂げる可能性には、多くの理由がありますが、特に日本企業にとってそのメリットは計り知れません。最後に、日本企業がインドを積極的に活用すべき理由についてあらためて整理をして本記事を終わりたいと思います。
インドのソフトウェアエンジニアの給与水準は日本と比較しても決して低くはありませんが、インドは特に高い技術力を持ったエンジニアが豊富に存在します。日本国内では企業やスタートアップが求めるスキルセットや技術領域に対応可能なエンジニアが不足している中、インドではそれらを容易に確保できるのです。この点は、何よりもインドにオフショア開発拠点やGCC拠点を設ける大きな魅力の一つと言えます。
多くの日本企業がグローバル市場に目を向ける中で、インドのエンジニアはその橋渡し役として非常に大きな役割を果たしています。文化的な差異を乗り越え、共通の目標に向かって協力することで、日本企業の海外市場での成功に貢献してくれるものと思います。インドのIT人材との協働は、新しい市場への進出や御社のさらなるグローバル展開を強力に支援します。
インドと日本は文化的に異なる部分が多いですが、その違いを理解し、上手に活用することで大きなシナジーを生み出すことができると考えます。たとえば、インドの柔軟かつスピーディな行動力やゼロイチの新規事業立ち上げにかかる瞬発力と、日本の精密な顧客提供価値の探究力や品質管理能力を組み合わせることで、より革新的な製品開発が可能になるのではないでしょうか。また、両国の間の良好なコミュニケーションとお互いを尊重した深い理解は、プロジェクトの成功を大きく左右します。
インドのオフショア開発やGCC設置には、日本企業が世界で競争するための重要な要素が揃っています。技術力の高いエンジニアの存在、グローバル市場への展開能力、そして異文化間のシナジー創出可能性は、インドをオフショア開発やGCC設置の理想的な地としています。これらを活かし、適切な戦略と文化的理解をもって進めば、日本企業にとっての飛躍のチャンスとなるものと感じます。日本企業がそのポテンシャルを最大限に活用できるようになることを心から期待し、我々もその一助となれるよう尽力したいと思います。
【参考文献】
(※1)https://www.jetro.go.jp/biz/areareports/special/2019/0303/a81be0374a5b4362.html
(※2)https://www.digitalindia.gov.in/
(※4)https://www.startupindia.gov.in/
(※5)https://www.investindia.gov.in/indian-unicorn-landscape
(※7)https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGM194MW0Z10C24A2000000/
(※8)https://yourstory.com/2023/09/techsparks-2023-yourstory-startups-exhibition-innovation
(※11)https://cqlab.com/hofstede-cwq/
(※12)https://hofstede.jp/intercultural-management/#hofstede_model